5.3 イベントフラグ
RI78V4では,ある処理プログラムの実行結果が出るまでの間,“処理の実行を待つ”といったタスク間の待ち合わせ機能として“16ビット幅のイベントフラグ”を提供しています。

以下に,イベントフラグを利用した場合の処理の流れを示します。

図5−2  処理の流れ(イベントフラグ)



5.3.1 イベントフラグの生成

RI78V4では,イベントフラグの生成方法を“カーネル初期化部において静的に生成する”に限定しています。

したがって,RI78V4では,イベントフラグを処理プログラムからサービス・コールを発行するなどして動的に生成することはできません。

- 静的な生成
イベントフラグの静的な生成は,システム・コンフィギュレーション・ファイルにイベントフラグ情報を定義することにより実現されます。
RI78V4では,カーネル初期化部において,情報ファイルに格納されているデータをもとにイベントフラグの生成処理を実行し,管理対象とします。



備考 RI78V4では,イベントフラグの生成処理において,“0x0”を初期ビット・パターンとして設定します。

5.3.2 イベントフラグの削除

RI78V4では,カーネル初期化部において静的に生成されたイベントフラグを処理プログラムからサービス・コールを発行するなどして動的に削除することはできません。

5.3.3 ビット・パターンのセット

ビット・パターンのセットは,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。

- set_flgiset_flg
パラメータflgidで指定されたイベントフラグのビット・パターンとパラメータsetptnで指定されたビット・パターンの論理和ORを対象イベントフラグのビット・パターンとして設定します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグの待ちキューにキューイングされているタスクの要求条件を満足した場合には,ビット・パターンの設定処理とともに,該当タスクを待ちキューから外します。
これにより,該当タスクは,WAITING状態(イベントフラグ待ち状態)からREADY状態へ,またはWAITING-SUSPENDED状態からSUSPENDED状態へと遷移します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。




 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 func_task ( VP_INT exinf )
 {
         ID      flgid = ID_flgA;        /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  setptn = 0B1010;        /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         set_flg ( flgid, setptn );      /*ビット・パターンのセット*/
 
         ............
         ............
 }
 

備考1 本サービス・コールを発行した際,待ちキューのタスクがREADY状態へと遷移する場合は,該当タスクの優先度に対応したレディ・キューの最後尾にキューイングし直す処理もあわせて実行されます。

備考2 本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグに設定されているビット・パターンがB'1100,パラメータsetptnで指定されたビット・パターンがB'1010であった場合には,対象イベントフラグのビット・パターンはB'1110となります。

5.3.4 ビット・パターンのクリア

ビット・パターンのクリアは,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。

- clr_flg
パラメータflgidで指定されたイベントフラグに設定されているビット・パターンとパラメータclrptnで指定されたビット・パターンの論理積ANDを対象イベントフラグのビット・パターンとして設定します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。


 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 func_task ( VP_INT exinf )
 {
         ID      flgid = ID_flgA;        /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  clrptn = 0B1010;        /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         clr_flg ( flgid, clrptn );      /*ビット・パターンのクリア*/
 
         ............
         ............
 }
 

備考1 本サービス・コールでは,クリア要求のキューイングが行われません。このため,ビット・パターンがクリアされていた場合には,何も処理は行わず,エラーとしても扱いません。

備考2 本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグに設定されているビット・パターンがB'1100,パラメータclrptnで指定されたビット・パターンがB'1010であった場合には,対象イベントフラグのビット・パターンはB'1000となります。

備考3 本サービス・コールでは,イベントフラグ待ち状態のタスクが“待ち解除”されることはありません。

5.3.5 ビット・パターンのチェック

ビット・パターンのチェック(永久待ち,ポーリング,タイムアウト付き)は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。

- wai_flg
パラメータwaiptnで指定されたビット・パターンとパラメータwfmodeで指定された要求条件を満足するビット・パターンがパラメータflgidで指定されたイベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
なお,要求条件を満足するビット・パターンが対象イベントフラグに設定されていた場合には,対象イベントフラグのビット・パターンをパラメータp_flgptnで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグのビット・パターンが要求条件を満足していなかった場合には,自タスクを対象イベントフラグの待ちキューにキューイングします。
これにより,自タスクは,レディ・キューから外れ,RUNNING状態からWAITING状態(イベントフラグ待ち状態)へと遷移します。
なお,イベントフラグ待ち状態の解除は,以下の場合に行われ,イベントフラグ待ち状態からREADY状態へと遷移します。





 
イベントフラグ待ち状態の解除操作

エラー・コード

set_flgの発行により,対象イベントフラグに要求条件を満足するビット・パターンが設定された

E_OK

iset_flgの発行により,対象イベントフラグに要求条件を満足するビット・パターンが設定された

E_OK

rel_waiの発行により,イベントフラグ待ち状態を強制的に解除された

E_RLWAI

irel_waiの発行により,イベントフラグ待ち状態を強制的に解除された

E_RLWAI



以下に,要求条件wfmodeの指定形式を示します。

- wfmode = TWF_ANDW
パラメータwaiptnで1を設定している全ビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。


- wfmode = TWF_ORW
パラメータwaiptnで1を設定しているビットのうち,いずれかのビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。


以下に,本サービス・コールの記述例を示します。

 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 func_task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      flgid = ID_flgA;        /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  waiptn = 0B1110;        /*変数の宣言,初期化*/
         MODE    wfmode = TWF_ANDW;      /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  p_flgptn;               /*変数の宣言*/
 
         ............
         ............
                                         /*ビット・パターンのチェック(永久待ち)*/
         ercd = wai_flg ( flgid, waiptn, wfmode, &p_flgptn );
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
                 ............
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }
 

備考1 RI78V4では,イベントフラグの待ちキューにキューイング可能なタスク数は1個としています。このため,タスクがキューイングされているイベントフラグに対して本サービス・コールを発行した場合には,要求条件の即時成立/不成立を問わず,戻り値として“E_ILUSE”が返されます。

備考2 対象イベントフラグ(TA_CLR属性)の要求条件が満足した際,RI78V4はビット・パターンのクリア処理(0x0の設定)を実行します。

- pol_flg
パラメータwaiptnで指定されたビット・パターンとパラメータwfmodeで指定された要求条件を満足するビット・パターンがパラメータflgidで指定されたイベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
なお,要求条件を満足するビット・パターンが対象イベントフラグに設定されていた場合には,対象イベントフラグのビット・パターンをパラメータp_flgptnで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグのビット・パターンが要求条件を満足していなかった場合には,戻り値として“E_TMOUT”が返されます。
以下に,要求条件wfmodeの指定形式を示します。




- wfmode = TWF_ANDW
パラメータwaiptnで1を設定している全ビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。


- wfmode = TWF_ORW
パラメータwaiptnで1を設定しているビットのうち,いずれかのビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。


以下に,本サービス・コールの記述例を示します。

 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 func_task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      flgid = ID_flgA;        /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  waiptn = 0B1110;        /*変数の宣言,初期化*/
         MODE    wfmode = TWF_ANDW;      /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  p_flgptn;               /*変数の宣言*/
 
         ............
         ............
                                         /*ビット・パターンのチェック(ポーリング)*/
         ercd = pol_flg ( flgid, waiptn, wfmode, &p_flgptn );
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*ポーリング成功処理*/
                 ............
         } else if ( ercd == E_TMOUT ) {
                 ............            /*ポーリング失敗処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }
 

備考1 RI78V4では,イベントフラグの待ちキューにキューイング可能なタスク数は1個としています。このため,タスクがキューイングされているイベントフラグに対して本サービス・コールを発行した場合には,要求条件の即時成立/不成立を問わず,戻り値として“E_ILUSE”が返されます。

備考2 対象イベントフラグ(TA_CLR属性)の要求条件が満足した際,RI78V4はビット・パターンのクリア処理(0x0の設定)を実行します。

- twai_flg
パラメータwaiptnで指定されたビット・パターンとパラメータwfmodeで指定された要求条件を満足するビット・パターンがパラメータflgidで指定されたイベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
なお,要求条件を満足するビット・パターンが対象イベントフラグに設定されていた場合には,対象イベントフラグのビット・パターンをパラメータp_flgptnで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグのビット・パターンが要求条件を満足していなかった場合には,自タスクを対象イベントフラグの待ちキューにキューイングします。
これにより,自タスクは,レディ・キューから外れ,RUNNING状態からWAITING状態(イベントフラグ待ち状態)へと遷移します。
なお,イベントフラグ待ち状態の解除は,以下の場合に行われ,イベントフラグ待ち状態からREADY状態へと遷移します。





 
イベントフラグ待ち状態の解除操作

エラー・コード

set_flgの発行により,対象イベントフラグに要求条件を満足するビット・パターンが設定された

E_OK

iset_flgの発行により,対象イベントフラグに要求条件を満足するビット・パターンが設定された

E_OK

rel_waiの発行により,イベントフラグ待ち状態を強制的に解除された

E_RLWAI

irel_waiの発行により,イベントフラグ待ち状態を強制的に解除された

E_RLWAI

パラメータtmoutで指定された待ち時間が経過した

E_TMOUT



以下に,要求条件wfmodeの指定形式を示します。

- wfmode = TWF_ANDW
パラメータwaiptnで1を設定している全ビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。


- wfmode = TWF_ORW
パラメータwaiptnで1を設定しているビットのうち,いずれかのビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。


以下に,本サービス・コールの記述例を示します。

 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 func_task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      flgid = ID_flgA;        /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  waiptn = 0B1110;        /*変数の宣言,初期化*/
         MODE    wfmode = TWF_ANDW;      /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  p_flgptn;               /*変数の宣言*/
         TMO     tmout = 3600;           /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
                                         /*ビット・パターンのチェック(タイムアウト付き)*/
         ercd = twai_flg ( flgid, waiptn, wfmode, &p_flgptn, tmout );
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
                 ............
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
                 ............
         } else if ( ercd == E_TMOUT ) {
                 ............            /*タイムアウト処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }
 

備考1 RI78V4では,イベントフラグの待ちキューにキューイング可能なタスク数は1個としています。このため,タスクがキューイングされているイベントフラグに対して本サービス・コールを発行した場合には,要求条件の即時成立/不成立を問わず,戻り値として“E_ILUSE”が返されます。

備考2 対象イベントフラグ(TA_CLR属性)の要求条件が満足した際,RI78V4はビット・パターンのクリア処理(0x0の設定)を実行します。

備考3 待ち時間tmoutにTMO_FEVRが指定された際には“wai_flgと同等の処理”を,TMO_POLが指定された際には“pol_flgと同等の処理”を実行します。

5.3.6 イベントフラグの状態参照

イベントフラグの状態参照は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。

- ref_flg
パラメータflgidで指定されたイベントフラグのイベントフラグ状態情報(待ちタスクの有無など)をパラメータpk_rflgで指定された領域に格納します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。


 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 func_task ( VP_INT exinf )
 {
         ID      flgid = ID_flgA;        /*変数の宣言,初期化*/
         T_RFLG  pk_rflg;                /*データ構造体の宣言*/
         ID      wtskid;                 /*変数の宣言*/
         FLGPTN  flgptn;                 /*変数の宣言*/
 
         ............
         ............
 
         ref_flg ( flgid, &pk_rflg );    /*イベントフラグの状態参照*/
 
         wtskid = pk_rflg.wtskid;        /*待ちタスクの有無の獲得*/
         flgptn = pk_rflg.flgptn;        /*現在ビット・パターンの獲得*/
 
         ............
         ............
 }
 

備考 イベントフラグ状態情報T_RFLGについての詳細は,「12.5.3 イベントフラグ状態情報」を参照してください。