第7章  メモリ・プール管理機能


本章では,RI850V4が提供しているメモリ・プール管理機能について解説しています。

7.1 概  要

RI850V4におけるメモリ・プール管理機能では,カーネル初期化部において静的に確保/初期化されたメモリ領域を管理対象としています。

なお,RI850V4では,静的に確保/初期化されたメモリ領域の一部を“固定長メモリ・プール”,または“可変長メモリ・プール”として解放することにより,固定長メモリ・ブロックの獲得/解放,可変長メモリ・ブロックの獲得/解放などといったメモリ領域を動的に操作する機能のほかに,固定長メモリ・プール詳細情報の参照,可変長メモリ・プール詳細情報の参照などといったメモリ領域の状態を参照する機能も提供しています。

以下に,RI850V4が使用/管理するメモリ領域を示します。

表7−1  メモリ領域

セクション名

概要

.kernel_system

RI850V4の実行コードが割り付けられる領域

.kernel_const

RI850V4の静的データが割り付けられる領域

.kernel_data

RI850V4の動的データが割り付けられる領域

.kernel_data_init

RI850V4のカーネル初期化フラグが割り付けられる領域

.kernel_const_trace.const

トレース機能の静的データが割り付けられる領域

.kernel_data_trace.bss

トレース機能の動的データが割り付けられる領域

.kernel_work

システム・スタック,タスク・スタック,データ・キュー領域,固定長メモリ・プール,可変長メモリ・プールが割り付けられる領域

.sec_nam(ユーザ定義領域)

タスク・スタック,データ・キュー領域,固定長メモリ・プール,可変長メモリ

プールが割り付けられる領域



7.2 ユーザ・オウン・コーディング部

RI850V4では,さまざまな実行環境に対応するために,メモリ・プール管理機能のうち,RI850V4が処理を実行するうえで必要となるハードウエア依存処理(オーバフロー後処理)をユーザ・オウン・コーディング部として切り出しています。

これにより,さまざまな実行環境への移植性を向上させるとともに,カスタマイズ化を容易なものとしています。

備考 RI850V4によるスタックのオーバフロー・チェックは,システム・コンフィギュレーション・ファイル作成時にスタック・チェックの有無stkchkで“TA_ON:オーバフロー・チェックを行う”を定義した場合に限り行われます。

7.2.1 オーバフロー後処理

オーバフロー後処理は,処理プログラムのスタックがオーバフローした際に呼び出されるオーバフロー処理の後処理用にユーザ・オウン・コーディング部として切り出された後処理専用ルーチンであり,スタックがオーバフローした際にRI850V4から呼び出されます。

- オーバフロー後処理の基本型
オーバフロー後処理を記述する場合,INT型の引き数を2つ持ったvoid型の関数(関数名:_kernel_stk_overflow)として記述します。
なお,引き数r6には“スタックのオーバフローが検出された時点のスタック・ポインタspの値”が,r7には“スタックのオーバフローが検出された時点のプログラム・カウンタpcの値”が設定されます。
以下に,オーバフロー後処理をアセンブリ言語で記述する場合の基本型を示します。




 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 
         .text
         .align  0x2
         .globl  __kernel_stk_overflow
 __kernel_stk_overflow :
 
         ............
         ............
 
 .halt_loop :
         jbr     .halt_loop


- オーバフロー後処理内での処理
オーバフロー後処理は,RI850V4,および処理プログラムが処理を実行するうえで必要となるスタックがオーバフローした際の後処理を実行するためにユーザ・オウン・コーディング部として切り出された後処理専用ルーチンです。このため,オーバフロー後処理を記述する際には,以下に示す注意点があります。


- 記述方法
C言語,またはアセンブリ言語で記述します。
C言語で記述するときは通常の関数と同様に記述することができます。
アセンブリ言語で記述するときは使用するコンパイラの呼び出し規約にのっとって作成してください。




- スタックの切り替え
RI850V4では,オーバフロー後処理に制御を移す際,スタックの切り替え処理は行われません。したがって,オーバフロー後処理用スタックを使用する際には,オーバフロー後処理の開始部分でスタックの設定処理(スタック・ポインタSPの設定)を記述する必要があります。


- サービス・コールの発行
オーバフロー後処理では,正常な動作を保証することができないため,サービス・コールの発行が禁止されています。


以下に,オーバフロー後処理として実行すべき処理の一覧を示します。

- スタックのオーバフローに対応した後処理

備考 オーバフロー後処理として記述すべき処理内容(リセットなど)については,ユーザのシステムに依存しています。

7.3 固定長メモリ・プール

RI850V4では,処理プログラムから動的なメモリ操作要求が行われた際に利用するメモリ領域として“固定長メモリ・プール”を提供しています。

なお,固定長メモリ・プールに対する動的なメモリ操作は,固定サイズの固定長メモリ・ブロックを単位として行われます。

7.3.1 固定長メモリ・プールの生成

RI850V4では,固定長メモリ・プールの静的な生成のみサポートしています。処理プログラムからサービス・コールを発行して動的に生成することはできません。

固定長メモリ・プールの静的生成とは,システム・コンフィギュレーション・ファイルで静的API“CRE_MPF”を使用して固定長メモリ・プールを定義することをいいます。

静的API“CRE_MPF”の詳細は,「17.5.7 固定長メモリ・プール情報」を参照してください。

7.3.2 固定長メモリ・ブロックの獲得

固定長メモリ・ブロックの獲得は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。

- get_mpf
パラメータmpfidで指定された固定長メモリ・プールから固定長メモリ・ブロックを獲得し,その先頭アドレスをパラメータp_blkで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象固定長メモリ・プールから固定長メモリ・ブロックを獲得することができなかった(空き固定長メモリ・ブロックが存在しなかった)場合には,固定長メモリ・ブロックの獲得は行わず,自タスクを対象固定長メモリ・プールの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からWAITING状態(固定長メモリ・ブロック獲得待ち状態)へと遷移させます。
なお,固定長メモリ・ブロック獲得待ち状態の解除は,以下の場合に行われ,固定長メモリ・ブロック獲得待ち状態からREADY状態へと遷移します。



 
固定長メモリ・ブロック獲得待ち状態の解除操作

エラー・コード

rel_mpfの発行により,対象固定長メモリ・プールに固定長メモリ・ブロックが返却された

E_OK

irel_mpfの発行により,対象固定長メモリ・プールに固定長メモリ・ブロックが返却された

E_OK

rel_waiの発行により,固定長メモリ・ブロック獲得待ち状態を強制的に解除された

E_RLWAI

irel_waiの発行により,固定長メモリ・ブロック獲得待ち状態を強制的に解除された

E_RLWAI



以下に,本サービス・コールの記述例を示します。

 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      mpfid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
         VP      p_blk;                  /*変数の宣言*/
 
         ............
         ............
 
                                         /*固定長メモリ・ブロックの獲得*/
         ercd = get_mpf ( mpfid, &p_blk );
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
                 ............
                                         /*固定長メモリ・ブロックの返却*/
                 rel_mpf ( mpfid, p_blk );
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }


備考1 RI850V4では,固定長メモリ・ブロックを獲得する際,メモリ・クリア処理を行っていません。したがって,獲得した固定長メモリ・ブロックの内容は不定となります。

備考2 自タスクを対象固定長メモリ・プールの待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,コンフィギュレーション時に定義された順(FIFO順,優先度順)に行われます。

備考3 rel_wai,またはirel_waiの発行により固定長メモリ・ブロック獲得待ち状態を解除された場合,パラメータp_blkで指定された領域の内容は不定となります。

- pget_mpfipget_mpf
パラメータmpfidで指定された固定長メモリ・プールから固定長メモリ・ブロックを獲得し,その先頭アドレスをパラメータp_blkで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象固定長メモリ・プールから固定長メモリ・ブロックを獲得することができなかった(空き固定長メモリ・ブロックが存在しなかった)場合には,固定長メモリ・ブロックの獲得は行わず,戻り値としてE_TMOUTを返します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。



 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      mpfid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
         VP      p_blk;                  /*変数の宣言*/
 
         ............
         ............
 
                                         /*固定長メモリ・ブロックの獲得(ポーリング)*/
         ercd = pget_mpf ( mpfid, &p_blk );
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*ポーリング成功処理*/
                 ............
 
                                         /*固定長メモリ・ブロックの返却*/
                 rel_mpf ( mpfid, p_blk );
         } else if ( ercd == E_TMOUT ) {
                 ............            /*ポーリング失敗処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }


備考1 RI850V4では,固定長メモリ・ブロックを獲得する際,メモリ・クリア処理を行っていません。したがって,獲得した固定長メモリ・ブロックの内容は不定となります。

備考2 本サービス・コールを発行した際,対象固定長メモリ・プールから固定長メモリ・ブロックを獲得することができなかった(空き固定長メモリ・ブロックが存在しなかった)場合,パラメータp_blkで指定された領域の内容は不定となります。

- tget_mpf
パラメータmpfidで指定された固定長メモリ・プールから固定長メモリ・ブロックを獲得し,その先頭アドレスをパラメータp_blkで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象固定長メモリ・プールから固定長メモリ・ブロックを獲得することができなかった(空き固定長メモリ・ブロックが存在しなかった)場合には,固定長メモリ・ブロックの獲得は行わず,自タスクを対象固定長メモリ・プールの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からタイムアウト付きのWAITING状態(固定長メモリ・ブロック獲得待ち状態)へと遷移させます。
なお,固定長メモリ・ブロック獲得待ち状態の解除は,以下の場合に行われ,固定長メモリ・ブロック獲得待ち状態からREADY状態へと遷移します。



 
固定長メモリ・ブロック獲得待ち状態の解除操作

エラー・コード

rel_mpfの発行により,対象固定長メモリ・プールに固定長メモリ・ブロックが返却された

E_OK

irel_mpfの発行により,対象固定長メモリ・プールに固定長メモリ・ブロックが返却された

E_OK

rel_waiの発行により,固定長メモリ・ブロック獲得待ち状態を強制的に解除された

E_RLWAI

irel_waiの発行により,固定長メモリ・ブロック獲得待ち状態を強制的に解除された

E_RLWAI

パラメータtmoutで指定された待ち時間が経過した

E_TMOUT



以下に,本サービス・コールの記述例を示します。

 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      mpfid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
         VP      p_blk;                  /*変数の宣言*/
         TMO     tmout = 3600;           /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
                                         /*固定長メモリ・ブロックの獲得(タイムアウト付き)*/
         ercd = tget_mpf ( mpfid, &p_blk, tmout );
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
                 ............
 
                                         /*固定長メモリ・ブロックの返却*/
                 rel_mpf ( mpfid, p_blk );
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
                 ............
         } else if ( ercd == E_TMOUT ) {
                 ............            /*タイムアウト処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }


備考1 RI850V4では,固定長メモリ・ブロックを獲得する際,メモリ・クリア処理を行っていません。したがって,獲得した固定長メモリ・ブロックの内容は不定となります。

備考2 自タスクを対象固定長メモリ・プールの待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,コンフィギュレーション時に定義された順(FIFO順,優先度順)に行われます。

備考3 rel_wai,またはirel_waiの発行,または待ち時間の経過により固定長メモリ・ブロック獲得待ち状態を解除された場合,パラメータp_blkで指定された領域の内容は不定となります。

備考4 待ち時間tmoutにTMO_FEVRが指定された際には“get_mpfと同等の処理”を,TMO_POLが指定された際には“pget_mpfipget_mpfと同等の処理”を実行します。

7.3.3 固定長メモリ・ブロックの返却

固定長メモリ・ブロックの返却は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。

- rel_mpfirel_mpf
パラメータmpfidで指定された固定長メモリ・プールにパラメータblkで指定された固定長メモリ・ブロックを返却します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象固定長メモリ・プールの待ちキューにタスクがキューイングされていた場合には,固定長メモリ・ブロックの返却は行わず,該当タスク(待ちキューの先頭タスク)に固定長メモリ・ブロックを渡します。これにより,該当タスクは,待ちキューから外れ,WAITING状態(固定長メモリ・ブロック獲得待ち状態)からREADY状態へ,またはWAITING-SUSPENDED状態からSUSPENDED状態へと遷移します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。



 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      mpfid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
         VP      blk;                    /*変数の宣言*/
 
         ............
         ............
 
         ercd = get_mpf ( mpfid, &blk ); /*固定長メモリ・ブロックの獲得*/
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
                 ............
 
                 rel_mpf ( mpfid, blk ); /*固定長メモリ・ブロックの返却*/
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }


備考1 RI850V4では,固定長メモリ・ブロックを返却する際,メモリ・クリア処理を行っていません。したがって,返却された固定長メモリ・ブロックの内容は不定となります。

備考2 固定長メモリ・ブロックを返却する際は,必ず獲得した固定長メモリ・プールに対して本サービス・コールを発行してください。異なる固定長メモリ・プールに対して本サービス・コールを発行してもエラーにはなりませんが,以後の動作は保証されません。

7.3.4 固定長メモリ・プール詳細情報の参照

固定長メモリ・プール詳細情報の参照は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。

- ref_mpfiref_mpf
パラメータmpfidで指定された固定長メモリ・プールの固定長メモリ・プール詳細情報(待ちタスクの有無,空き固定長メモリ・ブロックの総数など)をパラメータpk_rmpfで指定された領域に格納します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。


 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 task ( VP_INT exinf )
 {
         ID      mpfid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
         T_RMPF  pk_rmpf;                /*データ構造体の宣言*/
         ID      wtskid;                 /*変数の宣言*/
         UINT    fblkcnt;                /*変数の宣言*/
         ATR     mpfatr;                 /*変数の宣言*/
 
         ............
         ............
 
         ref_mpf ( mpfid, &pk_rmpf );    /*固定長メモリ・プール詳細情報の参照*/
 
         wtskid = pk_rmpf.wtskid;        /*待ちタスクの有無の獲得*/
         fblkcnt = pk_rmpf.fblkcnt;      /*空き固定長メモリ・ブロックの総数の獲得*/
         mpfatr = pk_rmpf.mpfatr;        /*属性の獲得*/
 
         ............
         ............
 }


備考 固定長メモリ・プール詳細情報T_RMPFについての詳細は,「15.2.9 固定長メモリ・プール詳細情報」を参照してください。