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5.5 メールボックス
RI78V4では,ある処理プログラムの実行結果を他の処理プログラムに引き渡すといったタスク間の通信機能として“メールボックス”を提供しています。
以下に,メールボックスを利用した場合の処理の流れを示します。
図5-4  処理の流れ(メールボックス)
5.5.1 メールボックスの生成
RI78V4では,メールボックスの生成方法を“カーネル初期化部において静的に生成する”に限定しています。
したがって,RI78V4では,メールボックスを処理プログラムからサービス・コールを発行するなどして動的に生成することはできません。
- 静的な生成
メールボックスの静的な生成は,システム・コンフィギュレーション・ファイルにメールボックス情報を定義することにより実現されます。
RI78V4では,カーネル初期化部において,情報ファイルに格納されているデータをもとにメールボックスの生成処理を実行し,管理対象とします。
5.5.2 メールボックスの削除
RI78V4では,カーネル初期化部において静的に生成されたメールボックスを処理プログラムからサービス・コールを発行するなどして動的に削除することはできません。
5.5.3 メッセージ
RI78V4では,処理プログラム間でメールボックスを介してやり取りされる情報を“メッセージ”と呼んでいます。
なお,メッセージは,メールボックスを介することにより任意の処理プログラムに対して送信することができますが,RI78V4における同期通信機能(メールボックス)では,メッセージの先頭アドレスを受信側処理プログラムに渡すだけであり,メッセージの内容が他領域にコピーされるわけではないので注意が必要です。
- メモリ領域の確保
RI78V4では,get_mpfpget_mpfなどといったサービス・コールを発行して確保したメモリ領域をメッセージ用に使用することを推奨しています。
備考 RI78V4では,メッセージの先頭領域をメールボックスのメッセージ用待ちキューにキューイングする際のリンク領域として使用します。このため,メッセージ用のメモリ領域をRI78V4が管理しているメモリ領域以外から確保する場合は,4バイト・アラインされたアドレスから確保する必要があります。
- メッセージの基本型
RI78V4では,メッセージの内容,長さについては,利用するメールボックスの属性により,以下の規定を設けています。
- TA_MFIFO属性のメールボックスを利用する場合
RI78V4では,メッセージの先頭4バイト(システム予約領域msgque)以降の内容,長さについては特に規定していません。
したがって,先頭4バイト以降の内容,長さについては,TA_MFIFO属性のメールボックスを利用して情報のやり取りを行う処理プログラム間で規定することになります。
以下に,TA_MFIFO属性用メッセージをC言語で記述する場合の基本型を示します。
【 TA_MFIFO属性用メッセージT_MSGの構造 】
 typedef struct  t_msg {
         struct  t_msg   __near   *msgque;        /*システム予約領域*/
 } T_MSG;
 
- TA_MPRI属性のメールボックスを利用する場合
RI78V4では,メッセージの先頭5バイト(システム予約領域msgque,優先度msgpri)以降の内容,長さについては特に規定していません。
したがって,先頭5バイト以降の内容,長さについては,TA_MPRI属性のメールボックスを利用して情報のやり取りを行う処理プログラム間で規定することになります。
以下に,TA_MPRI属性用メッセージをC言語で記述する場合の基本型を示します。
【 TA_MPRI属性用メッセージT_MSG_PRIの構造 】
 typedef struct  t_msg_pri {
         struct  t_msg   __near   *msgque;        /*システム予約領域*/
         PRI     msgpri;                         /*優先度*/
 } T_MSG_PRI;
 
備考1 RI78V4におけるメッセージの優先度は,その値が小さいほど,高い優先度であることを意味します。
備考2 メッセージの優先度として指定可能な値は,“1~31”に限られます。
備考3 メッセージT_MSG,T_MSG_PRIについての詳細は,「12.5.5 メッセージ」を参照してください。
5.5.4 メッセージの送信
メッセージの送信は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- snd_mbx
パラメータmbxidで指定されたメールボックスにパラメータpk_msgで指定されたメッセージを送信(待ちキューにメッセージをキューイング)します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象メールボックスの待ちキューにタスクがキューイングされていた場合には,メッセージのキューイング処理は実行されず,該当タスク(待ちキューの先頭タスク)にメッセージが渡されます。
これにより,該当タスクは,待ちキューから外れ,WAITING状態(メッセージ待ち状態)からREADY状態へ,またはWAITING-SUSPENDED状態からSUSPENDED状態へと遷移します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 func_task ( VP_INT exinf )
 {
         ID      mpfid = ID_mpfA;        /*変数の宣言,初期化*/
         VP      p_blk;                  /*変数の宣言*/
         char    *p;                     /*変数の宣言*/
         ID      mbxid = ID_mbxA;        /*変数の宣言,初期化*/
         T_MSG_PRI       *pk_msg;        /*データ構造体の宣言*/
 
         ............
         ............
 
         get_mpf ( mpfid, &p_blk );      /*メモリ領域(メッセージ用)の確保/
                                         /*変数の初期化*/
         p = (char *)p_blk + sizeof (T_MSG_PRI);
 
         while ( expr ) {
                 *p++ = ............     /*メッセージ本体(内容)の作成*/
         }
 
         (T_MSG_PRI *)p_blk->msgpri = 8; /*データ構造体の初期化*/
                                         /*メッセージの送信*/
         snd_mbx ( mbxid, (T_MSG_PRI *)p_blk );
 
         ............
         ............
 }
 
備考1 本サービス・コールを発行した際,待ちキューの先頭タスクがREADY状態へと遷移する場合は,該当タスクの優先度に対応したレディ・キューの最後尾にキューイングし直す処理もあわせて実行されます。
備考2 メッセージを対象メールボックスの待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,コンフィギュレーション時に属性(キューイング方式)mbxatrで定義された順(FIFO順,優先度順)となります。
備考3 RI78V4のメールボックスは,メッセージの先頭アドレスを受信側処理プログラムに渡すだけであり,メッセージの内容が他領域にコピーされるわけではありません。したがって,本サービス・コールの発行後であってもメッセージの内容を書き換えることができます。
備考4 メッセージT_MSG,T_MSG_PRIについての詳細は,「12.5.5 メッセージ」を参照してください。
5.5.5 メッセージの受信
メッセージの受信(永久待ち,ポーリング,タイムアウト付き)は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- rcv_mbx
パラメータmbxidで指定されたメールボックスからメッセージを受信し,その先頭アドレスをパラメータppk_msgで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象メールボックスからメッセージを受信することができなかった(待ちキューにメッセージがキューイングされていなかった)場合には,メッセージの受信処理は実行されず,自タスクを対象メールボックスの待ちキューにメッセージの受信要求順(FIFO順)でキューイングします。
これにより,自タスクは,レディ・キューから外れ,RUNNING状態からWAITING状態(メッセージ待ち状態)へと遷移します。
なお,メッセージ待ち状態の解除は,以下の場合に行われ,メッセージ待ち状態からREADY状態へと遷移します。
 
メッセージ待ち状態の解除操作
エラー・コード
snd_mbxの発行により,対象メールボックスにメッセージが送信された
E_OK
rel_waiの発行により,メッセージ待ち状態を強制的に解除された
E_RLWAI
irel_waiの発行により,メッセージ待ち状態を強制的に解除された
E_RLWAI

以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 func_task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      mbxid = ID_mbxA;        /*変数の宣言,初期化*/
         T_MSG   *ppk_msg;               /*データ構造体の宣言*/
 
         ............
         ............
                                         /*メッセージの受信(永久待ち)*/
         ercd = rcv_mbx ( mbxid, &ppk_msg );
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
                 ............
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }
 
備考 メッセージT_MSG,T_MSG_PRIについての詳細は,「12.5.5 メッセージ」を参照してください。
- prcv_mbx
パラメータmbxidで指定されたメールボックスからメッセージを受信し,その先頭アドレスをパラメータppk_msgで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象メールボックスからメッセージを受信することができなかった(待ちキューにメッセージがキューイングされていなかった)場合には,メッセージの受信処理は実行されず,戻り値として“E_TMOUT”が返されます。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 func_task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      mbxid = ID_mbxA;        /*変数の宣言,初期化*/
         T_MSG   *ppk_msg;               /*データ構造体の宣言*/
 
         ............
         ............
                                         /*メッセージの受信(ポーリング)*/
         ercd = prcv_mbx ( mbxid, &ppk_msg );
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*ポーリング成功処理*/
                 ............
         } else if ( ercd == E_TMOUT ) {
                 ............            /*ポーリング失敗処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }
 
備考 メッセージT_MSG,T_MSG_PRIについての詳細は,「12.5.5 メッセージ」を参照してください。
- trcv_mbx
パラメータmbxidで指定されたメールボックスからメッセージを受信し,その先頭アドレスをパラメータppk_msgで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象メールボックスからメッセージを受信することができなかった(待ちキューにメッセージがキューイングされていなかった)場合には,メッセージの受信処理は実行されず,自タスクを対象メールボックスの待ちキューにメッセージの受信要求順(FIFO順)でキューイングします。
これにより,自タスクは,レディ・キューから外れ,RUNNING状態からWAITING状態(メッセージ待ち状態)へと遷移します。
なお,メッセージ待ち状態の解除は,以下の場合に行われ,メッセージ待ち状態からREADY状態へと遷移します。
 
メッセージ待ち状態の解除操作
エラー・コード
snd_mbxの発行により,対象メールボックスにメッセージが送信された
E_OK
rel_waiの発行により,メッセージ待ち状態を強制的に解除された
E_RLWAI
irel_waiの発行により,メッセージ待ち状態を強制的に解除された
E_RLWAI
パラメータtmoutで指定された待ち時間が経過した
E_TMOUT

以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 func_task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      mbxid = ID_mbxA;        /*変数の宣言,初期化*/
         T_MSG   *ppk_msg;               /*データ構造体の宣言*/
         TMO     tmout = 3600;           /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
                                         /*メッセージの受信(タイムアウト付き)*/
         ercd = trcv_mbx ( mbxid, &ppk_msg, tmout );
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
                 ............
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
                 ............
         } else if ( ercd == E_TMOUT ) {
                 ............            /*タイムアウト処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }

備考1 待ち時間tmoutにTMO_FEVRが指定された際には“rcv_mbxと同等の処理”を,TMO_POLが指定された際には“prcv_mbxと同等の処理”を実行します。
備考2 メッセージT_MSG,T_MSG_PRIについての詳細は,「12.5.5 メッセージ」を参照してください。
5.5.6 メールボックスの状態参照
メールボックスの状態参照は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- ref_mbx
パラメータmbxidで指定されたメールボックスのメールボックス状態情報(待ちタスクの有無など)をパラメータpk_rmbxで指定された領域に格納します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 func_task ( VP_INT exinf )
 {
         ID      mbxid = ID_mbxA;        /*変数の宣言,初期化*/
         T_RMBX  pk_rmbx;                /*データ構造体の宣言*/
         ID      wtskid;                 /*変数の宣言*/
         T_MSG   *pk_msg;                /*データ構造体の宣言*/
 
         ............
         ............
 
         ref_mbx ( mbxid, &pk_rmbx );    /*メールボックスの状態参照*/
 
         wtskid = pk_rmbx.wtskid;        /*待ちタスクの有無の獲得*/
         pk_msg = pk_rmbx.pk_msg;        /*待ちメッセージの有無の獲得*/
 
         ............
         ............
 }
 
備考 メールボックス状態情報T_RMBXについての詳細は,「12.5.6 メールボックス状態情報」を参照してください。