第1章  概  説


1.1 概  要

RI600PXは,効率のよいリアルタイム処理環境,および,マルチタスク処理環境を提供するとともに,対象CPUの制御機器分野における応用範囲を拡大することを目的として開発された“リアルタイム・マルチタスクOS”です。

また,実行環境に組み込んで使用することを前提として開発されているため,ROM化を意識し,コンパクトな設計が行われています。

RI600PXは,“リアルタイム・マルチタスクOS”として普及しているμITRON4.0仕様に準拠しており,さらにITRON4.0仕様保護機能拡張のメモリ保護機能をサポートしています。

1.1.1 リアルタイムOS

制御機器分野におけるシステムでは,内外の事象変化に対するリアルタイム性が要求されます。しかし,従来のシステムでは,このような要求をユーザが用意した単純な割り込み処理で対処してきたため,制御機器が高性能化,多様化するにつれ,単純な割り込み処理だけでの対処が困難になってきています。

つまり,処理プログラム量の増大,システムの複雑化により,内外の事象変化に対する処理を“どのような順序で実行させるのか”を管理することが煩雑になってきたといえます。

そこで,このような問題を解決するために考えられたのが“リアルタイムOS”です。

リアルタイムOSは,内外の事象変化に対するリアルタイム性を保証するとともに,最適な処理プログラムを最適な順序で実行させることを主な目的(仕事)としています。

1.1.2 マルチタスクOS

OSの世界では,OSの管理下で実行する処理プログラムを“タスク”,1つのプロセッサ上で複数のタスクを同時実行させることを“マルチタスキング”と呼んでいます。

しかし,厳密にはプロセッサ自体は一度に1つのタスク(命令)しか実行することができないため,タスクの実行を何らかの基準(きっかけ)を利用して非常に短い間隔で切り替えることにより,疑似的に複数のタスクが同時実行しているかのように見せています。

このように,システム内で規定されている何らかの基準を利用してタスクを切り替え,タスクの並列処理を可能としたのが“マルチタスクOS”です。

マルチタスクOSは,複数のタスクを並列実行させることにより,システム全体の処理能力を向上させることを主な目的(仕事)としています。



1.1.3 メモリ保護機能

1 ) 高信頼性システム
プログラム・ミスをプログラム・デバッグ時に検出できず,システムが市場に出荷された後で不具合が発生する可能性に対して,RI600PXはシステムの高信頼性化を実現します。メモリ・データ破壊が,特にOSなどを格納しているメモリ領域で発生すると,システムの動作が異常になる,などの危険な状態を招きます。しかし本OSではメモリ・データが破壊されることはないため,システムは正常な動作を継続でき,信頼性の高いシステムの実現に貢献します。


2 ) デバッグ支援
メモリ保護機能のないシステムでは,一般にはポインタ不正などでメモリ内容が破壊されても,実際に不具合現象となってはじめて気付きます。不具合の原因を特定するには,エミュレータのトレース機能などを元に解析するしかなく,それには多くの時間を費やす必要がありました。RI600PXでは,不正メモリ・アクセスの時点でそれが検出されるので,デバッグ効率が飛躍的に高まります。