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7.5 メールボックス
マルチタスク処理では,あるタスクの処理結果を他タスクに通知するといったタスク間の通信機能(メッセージの受け渡し機能)が必要となります。そこで,RI600PXでは,共有されているメモリ領域に書き込まれたメッセージの先頭アドレス受け渡し機能として“メールボックス”を提供しています。
以下に,メールボックスを利用した場合の処理の流れを示します。
図7-4  処理の流れ(メールボックス)
7.5.1 メッセージ
RI600PXでは,処理プログラム間でメールボックスを介してやり取りされる情報を“メッセージ”と呼んでいます。
なお,メッセージは,メールボックスを介することにより任意の処理プログラムに対して送信することができますが,RI600PXにおける同期通信機能(メールボックス)では,メッセージの先頭アドレスを受信側処理プログラムに渡すだけであり,メッセージの内容が他領域にコピーされるわけではないので注意が必要です。
- メッセージの領域
メッセージは,送受信双方のタスクからアクセス可能なメモリ・オブジェクト内に作成する必要があります。
ただし,メッセージ先頭には,カーネルの管理テーブルがあります。カーネル管理テーブルが破壊されると,システムの正常な動作は保証されません。この理由から,メッセージ通信には,データ・キューまたはメッセージ・バッファの使用を推奨します。
- メッセージの基本型
RI600PXでは,メッセージの内容,長さについては,利用するメールボックスの属性により,以下の規定を設けています。
- TA_MFIFO属性のメールボックスを利用する場合
メッセージの先頭にはT_MSG構造体が必要です。この領域は,RI600PXが使用します。ユーザのメッセージは,T_MSG構造体以降に設定します。
ユーザのメッセージの長さについては,メールボックスを利用して情報のやり取りを行う処理プログラム間で規定することになります。
以下に,TA_MFIFO属性用メッセージを記述する場合の基本型を示します。
【 TA_MFIFO属性用メッセージの構造 】
 /* kernel.hで定義されているT_MSG構造体 */
 typedef struct  {
         VP   *msghead;       /*RI600PX管理領域*/
 } T_MSG;
 
 /* ユーザが定義するメッセージ構造体 */
 typedef struct user_msg {
         T_MSG   t_msg;       /* T_MSG構造体 */
         B       data[8];     /* ユーザのメッセージ */
 } USER_MSG;

- TA_MPRI属性のメールボックスを利用する場合
メッセージの先頭にはT_MSG_PRI構造体が必要です。T_MSG_PRI.msgqueの領域は,RI600PXが使用します。T_MSG_PRI.msgpriには,メッセージの優先度を設定してください。ユーザのメッセージは,T_MSG_PRI構造体以降に設定します。
ユーザのメッセージの長さについては,メールボックスを利用して情報のやり取りを行う処理プログラム間で規定することになります
以下に,TA_MPRI属性用メッセージを記述する場合の基本型を示します。
【 TA_MPRI属性用メッセージの構造 】
 /* kernel.hで定義されているT_MSG構造体 */
 typedef struct  {
         VP   *msghead;       /*RI600PX管理領域*/
 } T_MSG;
 
 /* kernel.hで定義されているT_MSG_PRI構造体 */{
 typedef struct  {
         T_MSG   msgque;      /* メッセージヘッダ*/
         PRI     msgpri;      /* メッセージ優先度 */
 } T_MSG_PRI;
 
 /* ユーザが定義するメッセージ構造体 */
 typedef struct user_msg {
         T_MSG_PRI   t_msg;   /* T_MSG_PRI構造体 */
         B       data[8];     /* ユーザのメッセージ */
 } USER_MSG;

備考1 RI600PXにおけるメッセージの優先度は,その値が小さいほど,高い優先度であることを意味します。
備考2 メッセージの優先度として指定可能な値は,システム・コンフィギュレーション・ファイル作成時にメールボックス情報(mailbox[])最大メッセージ優先度(max_pri)で定義された値域に限定されます。
7.5.2 メールボックスの生成
メールボックスは,以下のいずれかの方法で生成します。
1 ) システム・コンフィギュレーション・ファイルによる生成
システム・コンフィギュレーション・ファイルで静的API“mailbox[]”を使用してメールボックスを生成します。
静的API“mailbox[]”の詳細は,「20.14 メールボックス情報(mailbox[])」を参照してください。
2 ) cre_mbx,またはacre_mbxサービスコールによる生成
cre_mbxは,パラメータpk_cmbxが指す領域に設定されたメールボックス生成情報にしたがって,パラメータmbxidで指定されたメールボックスIDのタスクを生成します。
acre_mbxは,パラメータpk_cmbxが指す領域に設定されたメールボックス生成情報にしたがってメールボックス生成し,生成されたメールボックスIDを返します。
指定するメールボックス生成情報は,以下の通りです。
- メールボックス属性(mbxatr
以下を指定します。
- タスク待ちキューの順序(FIFO順またはタスクの現在優先度順)
- メッセージ・キューの順序(FIFO順またはメッセージ優先度順)
- メッセージ優先度の最大値(maxmpri
これらのサービス・コールは,信頼されたドメインに所属するタスクだけが呼び出せます。
以下に,代表としてacre_mbxの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ID      mbxid;                  /*変数の宣言*/
         T_CMBX  pk_cmbx = {             /*変数の宣言,初期化*/
                          TA_TFIFO|TA_MFIFO, /*メールボックス属性(mbxatr)*/
                          1,                 /*メッセージ優先度の最大値(maxmpri)*/
                          (VP)0              /*予約(mprihd)*/
        };
         ............
         ............
         mbxid = acre_mbx ( &pk_cmbx );   /*メールボックスの生成*/
         ............
         ............
 }

備考 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
7.5.3 メールボックスの削除
- del_mbx
パラメータmbxidで指定されたメールボックスを削除します。
対象メールボックスでrcv_mbx,またはtrcv_mbxによって待っているタスクがある場合は,そのタスク待ち状態を解除し,rcv_mbx,またはtrcv_mbxの戻り値としてE_DLTを返します。
本サービス・コールは,信頼されたドメインに所属するタスクだけが呼び出せます。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ID      mbxid = 8;              /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         del_mbx( mbxid );               /*メールボックスの削除*/
 }

備考 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
7.5.4 メッセージの送信
メッセージの送信は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- snd_mbxisnd_mbx
パラメータmbxidで指定されたメールボックスにパラメータpk_msgで指定されたメッセージを送信します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象メールボックスの待ちキューにタスクがキューイングされていた場合には,メッセージの送信(メッセージのキューイング処理)は行わず,該当タスクにメッセージを渡します。これにより,該当タスクは,待ちキューから外れ,WAITING状態(メッセージ受信待ち状態)からREADY状態へ,またはWAITING-SUSPENDED状態からSUSPENDED状態へと遷移します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考3参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考3参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ID      mbxid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
         T_MSG_PRI       *pk_msg;        /*データ構造体の宣言*/
 
         ............
         ............
 
         ............                    /*メモリ領域(メッセージ用)を確保し,/
         pk_msg = ...                    /*そのポインタをpk_msgに設定 */
         ............
 
         ............                    /*本体(内容)の作成*/
         ............
 
         pk_msg->msgpri = 8;             /* メッセージ優先度を設定*/
 
                                         /*メッセージの送信*/
         snd_mbx ( mbxid, ( T_MSG * ) pk_msg );
 
         ............
         ............
 }

備考1 メッセージを対象メールボックスのメッセージ・キューにキューイングする際のキューイング方式は,メールボックスの生成時に指定した順(FIFO順またはメッセージ優先度順)に行われます。
備考2 メッセージT_MSG,T_MSG_PRIについての詳細は,「7.5.1 メッセージ」を参照してください。
備考3 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
7.5.5 メッセージの受信
メッセージの受信は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- rcv_mbx(待つ)
- prcv_mbxiprcv_mbx(ポーリング)
- trcv_mbxタイムアウト付きで待つ)
- rcv_mbx(待つ)
パラメータmbxidで指定されたメールボックスからメッセージを受信し,その先頭アドレスをパラメータppk_msgで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象メールボックスからメッセージを受信することができなかった(待ちキューにメッセージがキューイングされていなかった)場合には,メッセージの受信は行わず,自タスクを対象メールボックスの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からWAITING状態(メッセージ受信待ち状態)へと遷移させます。
なお,メッセージ受信待ち状態の解除は,以下の場合に行われます。
 
メッセージ受信待ち状態の解除操作
戻り値
snd_mbxの発行により,対象メールボックスにメッセージが送信された。
E_OK
isnd_mbxの発行により,対象メールボックスにメッセージが送信された。
E_OK
rel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_RLWAI
irel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_RLWAI
del_mbxの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_DLT

以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考3参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考3参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      mbxid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
         T_MSG   *pk_msg;                /*データ構造体の宣言*/
         ............
 
         ercd = rcv_mbx ( mbxid, &pk_msg );   /*メッセージの受信*/
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
         }
         ............
 }

備考1 自タスクを対象メールボックスの待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,メールボックスの生成時に指定した順(FIFO順または現在優先度順)に行われます。
備考2 メッセージT_MSG,T_MSG_PRIについての詳細は,「7.5.1 メッセージ」を参照してください。
備考3 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
- prcv_mbxiprcv_mbx(ポーリング)
パラメータmbxidで指定されたメールボックスからメッセージを受信し,その先頭アドレスをパラメータppk_msgで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象メールボックスからメッセージを受信することができなかった(待ちキューにメッセージがキューイングされていなかった)場合には,メッセージの受信は行わず,戻り値としてE_TMOUTを返します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      mbxid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
         T_MSG   *pk_msg;                /*データ構造体の宣言*/
         ............
 
         ercd = prcv_mbx ( mbxid, &pk_msg );   /*メッセージの受信*/
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*ポーリング成功処理*/
         } else if ( ercd == E_TMOUT ) {
                 ............            /*ポーリング失敗処理*/
         }
         ............
 }

備考1 メッセージT_MSG,T_MSG_PRIについての詳細は,「7.5.1 メッセージ」を参照してください。
備考2 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
- trcv_mbxタイムアウト付きで待つ)
パラメータmbxidで指定されたメールボックスからメッセージを受信し,その先頭アドレスをパラメータppk_msgで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象メールボックスからメッセージを受信することができなかった(待ちキューにメッセージがキューイングされていなかった)場合には,メッセージの受信は行わず,自タスクを対象メールボックスの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からタイムアウト付きのWAITING状態(メッセージ受信待ち状態)へと遷移させます。
なお,メッセージ受信待ち状態の解除は,以下の場合に行われます。
 
メッセージ受信待ち状態の解除操作
戻り値
snd_mbxの発行により,対象メールボックスにメッセージが送信された。
E_OK
isnd_mbxの発行により,対象メールボックスにメッセージが送信された。
E_OK
rel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_RLWAI
irel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_RLWAI
パラメータtmoutで指定された待ち時間が経過した。
E_TMOUT
del_mbxの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_DLT

以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考4参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考4参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      mbxid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
         T_MSG   *pk_msg;                /*データ構造体の宣言*/
         TMO     tmout = 3600;           /*変数の宣言,初期化*/
         ............
 
         ercd = trcv_mbx ( mbxid, &pk_msg, tmout );  /*メッセージの受信*/
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
         } else if ( ercd == E_TMOUT ) {
                 ............            /*タイムアウト処理*/
         }
         ............
 }

備考1 自タスクを対象メールボックスの待ちキューにキューイングする際のキューイング方式はメールボックスの生成時に指定した順(FIFO順または現在優先度順)に行われます。
備考2 待ち時間tmoutTMO_FEVRが指定された際には“rcv_mbxと同等の処理”を,TMO_POLが指定された際には“prcv_mbxと同等の処理”を実行します。
備考3 メッセージT_MSG,T_MSG_PRIについての詳細は,「7.5.1 メッセージ」を参照してください。
備考4 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
7.5.6 メールボックス詳細情報の参照
メールボックス詳細情報の参照は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- ref_mbxiref_mbx
パラメータmbxidで指定されたメールボックスのメールボックス詳細情報(待ちタスクの有無,待ちメッセージの有無)をパラメータpk_rmbxで指定された領域に格納します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ID      mbxid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
         T_RMBX  pk_rmbx;                /*データ構造体の宣言*/
         ID      wtskid;                 /*変数の宣言*/
         T_MSG   *pk_msg;                /*データ構造体の宣言*/
 
         ............
         ............
 
         ref_mbx ( mbxid, &pk_rmbx );    /*メールボックス詳細情報の参照*/
 
         wtskid = pk_rmbx.wtskid;        /*待ちタスクの有無の獲得*/
         pk_msg = pk_rmbx.pk_msg;        /*待ちメッセージの有無の獲得*/
 
         ............
         ............
 }

備考1 メールボックス詳細情報T_RMBXについての詳細は,「【 メールボックス詳細情報T_RMBXの構造 】」を参照してください。
備考2 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。