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5.3 イベントフラグ
マルチタスク処理では,あるタスクの処理結果が出るまでの間,他タスクが処理の実行を待つといったタスク間の待ち合わせ機能(事象の発生有無を判断できる機能)が必要となります。そこで,RI850V4では,このようなタスク間の待ち合わせ機能として“32ビット幅のイベントフラグ”を提供しています。
以下に,イベントフラグを利用した処理の流れを示します。
図5-2  処理の流れ(イベントフラグ)
5.3.1 イベントフラグの生成
RI850V4では,イベントフラグの静的な生成のみサポートしています。処理プログラムからサービス・コールを発行して動的に生成することはできません。
イベントフラグの静的生成とは,システム・コンフィギュレーション・ファイルで静的API“CRE_FLG”を使用してイベントフラグを定義することをいいます。
静的API“CRE_FLG”の詳細は,「17.5.3 イベントフラグ情報」を参照してください。
5.3.2 ビット・パターンのセット
ビット・パターンのセットは,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- set_flgiset_flg
パラメータflgidで指定されたイベントフラグのビット・パターンとパラメータsetptnで指定されたビット・パターンの論理和ORをとり,その結果を対象イベントフラグにセットします。
なお,本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグの待ちキューにキューイングされているタスクの要求条件を満足した場合には,ビット・パターンのセット(論理和ORの設定処理)とともに,該当タスクを待ちキューから外します。これにより,該当タスクは,WAITING状態(イベントフラグ待ち状態)からREADY状態へ,またはWAITING-SUSPENDED状態からSUSPENDED状態へと遷移します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 task ( VP_INT exinf )
 {
         ID      flgid = ID_FLG1;        /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  setptn = 10;            /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         set_flg ( flgid, setptn );      /*ビット・パターンのセット*/
 
         ............
         ............
 }

備考1 本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグのビット・パターンがB'1100,パラメータsetptnで指定されたビット・パターンがB'1010であった場合には,対象イベントフラグのビット・パターンはB'1110となります。
備考2 対象イベントフラグにTA_WMUL属性が指定されていた場合,“本サービス・コールの発行に伴い要求条件を満足したか否か”の判定対象となるタスクは,TA_CLR属性も指定されているか否かにより異なります。
- “指定あり”の場合
待ちキューにキューイングされている先頭タスクから要求条件を満足したタスクまでが判定対象となります。
- “指定なし”の場合
待ちキューにキューイングされている全タスクが判定対象となります。
5.3.3 ビット・パターンのクリア
ビット・パターンのクリアは,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- clr_flgiclr_flg
パラメータflgidで指定されたイベントフラグのビット・パターンとパラメータclrptnで指定されたビット・パターンの論理積ANDをとり,その結果を対象イベントフラグに設定します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 task ( VP_INT exinf )
 {
         ID      flgid = ID_FLG1;        /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  clrptn = 10;            /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         clr_flg ( flgid, clrptn );      /*ビット・パターンのクリア*/
 
         ............
         ............
 }

備考 本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグのビット・パターンがB'1100,パラメータclrptnで指定されたビット・パターンがB'1010であった場合には,対象イベントフラグのビット・パターンはB'1000となります。
5.3.4 ビット・パターンのチェック
ビット・パターンのチェックは,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- wai_flg
パラメータwaiptnで指定された要求ビット・パターンとパラメータwfmodeで指定された要求条件を満足するビット・パターンがパラメータflgidで指定されたイベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
なお,要求条件を満足するビット・パターンが対象イベントフラグに設定されていた場合には,対象イベントフラグのビット・パターンをパラメータp_flgptnで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグのビット・パターンが要求条件を満足していなかった場合には,自タスクを対象イベントフラグの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からWAITING状態(イベントフラグ待ち状態)へと遷移させます。
なお,イベントフラグ待ち状態の解除は,以下の場合に行われ,イベントフラグ待ち状態からREADY状態へと遷移します。
イベントフラグ待ち状態の解除操作
エラー・コード
set_flgの発行により,対象イベントフラグに要求条件を満足するビット・パターンが設定された
E_OK
iset_flgの発行により,対象イベントフラグに要求条件を満足するビット・パターンが設定された
E_OK
rel_waiの発行により,イベントフラグ待ち状態を強制的に解除された
E_RLWAI
irel_waiの発行により,イベントフラグ待ち状態を強制的に解除された
E_RLWAI
 
以下に,要求条件wfmodeの指定形式を示します。
- wfmode = TWF_ANDW
waiptnで1を設定している全ビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
- wfmode = TWF_ORW
waiptnで1を設定しているビットのうち,いずれかのビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      flgid = ID_FLG1;        /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  waiptn = 14;            /*変数の宣言,初期化*/
         MODE    wfmode = TWF_ANDW;      /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  p_flgptn;               /*変数の宣言*/
 
         ............
         ............
 
                                         /*ビット・パターンのチェック*/
         ercd = wai_flg ( flgid, waiptn, wfmode, &p_flgptn );
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
                 ............
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }

備考1 RI850V4では,イベントフラグの待ちキューに複数のタスクをキューイング可能とするか否かをコンフィギュレーション時に定義させています。このため,すでに待ちタスクがキューイングされているイベントフラグ(TW_WSGL属性)に対して本サービス・コールを発行した場合,RI850V4は要求条件の即時成立/不成立を問わず,戻り値としてE_ILUSEを返します。
TA_WSGL属性: キューイング可能なタスクは,1個
TA_WMUL属性: キューイング可能なタスクは,複数
備考2 自タスクを対象イベントフラグ(TA_WMUL属性)の待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,コンフィギュレーション時に定義された順(FIFO順,優先度順)に行われます。
備考3 対象イベントフラグ(TA_CLR属性)の要求条件が満足した際,RI850V4はビット・パターンのクリア(0x0の設定)を行います。
備考4 rel_wai,またはirel_waiの発行によりイベントフラグ待ち状態を解除された場合,パラメータp_flgptnで指定された領域の内容は不定となります。
- pol_flgipol_flg
パラメータwaiptnで指定された要求ビット・パターンとパラメータwfmodeで指定された要求条件を満足するビット・パターンがパラメータflgidで指定されたイベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
なお,要求条件を満足するビット・パターンが対象イベントフラグに設定されていた場合には,対象イベントフラグのビット・パターンをパラメータp_flgptnで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグのビット・パターンが要求条件を満足していなかった場合には,戻り値としてE_TMOUTを返します。
以下に,要求条件wfmodeの指定形式を示します。
- wfmode = TWF_ANDW
waiptnで1を設定している全ビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
- wfmode = TWF_ORW
waiptnで1を設定しているビットのうち,いずれかのビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      flgid = ID_FLG1;        /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  waiptn = 14;            /*変数の宣言,初期化*/
         MODE    wfmode = TWF_ANDW;      /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  p_flgptn;               /*変数の宣言*/
 
         ............
         ............
 
                                         /*ビット・パターンのチェック(ポーリング)*/
         ercd = pol_flg ( flgid, waiptn, wfmode, &p_flgptn );
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*ポーリング成功処理*/
                 ............
         } else if ( ercd == E_TMOUT ) {
                 ............            /*ポーリング失敗処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }

備考1 RI850V4では,イベントフラグの待ちキューに複数のタスクをキューイング可能とするか否かをコンフィギュレーション時に定義させています。このため,すでに待ちタスクがキューイングされているイベントフラグ(TW_WSGL属性)に対して本サービス・コールを発行した場合,RI850V4は要求条件の即時成立/不成立を問わず,戻り値としてE_ILUSEを返します。
TA_WSGL属性: キューイング可能なタスクは,1個
TA_WMUL属性: キューイング可能なタスクは,複数
備考2 対象イベントフラグ(TA_CLR属性)の要求条件が満足した際,RI850V4はビット・パターンのクリア(0x0の設定)を行います。
備考3 本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグのビット・パターンが要求条件を満足していなかった場合,パラメータp_flgptnで指定された領域の内容は不定となります。
- twai_flg
パラメータwaiptnで指定された要求ビット・パターンとパラメータwfmodeで指定された要求条件を満足するビット・パターンがパラメータflgidで指定されたイベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
なお,要求条件を満足するビット・パターンが対象イベントフラグに設定されていた場合には,対象イベントフラグのビット・パターンをパラメータp_flgptnで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグのビット・パターンが要求条件を満足していなかった場合には,自タスクを対象イベントフラグの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からタイムアウト付きのWAITING状態(イベントフラグ待ち状態)へと遷移させます。
なお,イベントフラグ待ち状態の解除は,以下の場合に行われ,イベントフラグ待ち状態からREADY状態へと遷移します。
 
イベントフラグ待ち状態の解除操作
エラー・コード
set_flgの発行により,対象イベントフラグに要求条件を満足するビット・パターンが設定された
E_OK
iset_flgの発行により,対象イベントフラグに要求条件を満足するビット・パターンが設定された
E_OK
rel_waiの発行により,イベントフラグ待ち状態を強制的に解除された
E_RLWAI
irel_waiの発行により,イベントフラグ待ち状態を強制的に解除された
E_RLWAI
パラメータtmoutで指定された待ち時間が経過した
E_TMOUT

以下に,要求条件wfmodeの指定形式を示します。
- wfmode = TWF_ANDW
waiptnで1を設定している全ビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
- wfmode = TWF_ORW
waiptnで1を設定しているビットのうち,いずれかのビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      flgid = ID_FLG1;        /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  waiptn = 14;            /*変数の宣言,初期化*/
         MODE    wfmode = TWF_ANDW;      /*変数の宣言,初期化*/
         FLGPTN  p_flgptn;               /*変数の宣言*/
         TMO     tmout = 3600;           /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
                                         /*ビット・パターンのチェック(タイムアウト付き)*/
         ercd = twai_flg ( flgid, waiptn, wfmode, &p_flgptn, tmout );
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
                 ............
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
                 ............
         } else if ( ercd == E_TMOUT ) {
                 ............            /*タイムアウト処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }

備考1 RI850V4では,イベントフラグの待ちキューに複数のタスクをキューイング可能とするか否かをコンフィギュレーション時に定義させています。このため,すでに待ちタスクがキューイングされているイベントフラグ(TW_WSGL属性)に対して本サービス・コールを発行した場合,RI850V4は要求条件の即時成立/不成立を問わず,戻り値としてE_ILUSEを返します。
TA_WSGL属性: キューイング可能なタスクは,1個
TA_WMUL属性: キューイング可能なタスクは,複数
備考2 自タスクを対象イベントフラグ(TA_WMUL属性)の待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,コンフィギュレーション時に定義された順(FIFO順,優先度順)に行われます。
備考3 対象イベントフラグ(TA_CLR属性)の要求条件が満足した際,RI850V4はビット・パターンのクリア(0x0の設定)を行います。
備考4 rel_wai,またはirel_waiの発行,または待ち時間の経過によりイベントフラグ待ち状態を解除された場合,パラメータp_flgptnで指定された領域の内容は不定となります。
備考5 待ち時間tmoutにTMO_FEVRが指定された際には“wai_flgと同等の処理”を,TMO_POLが指定された際には“pol_flgipol_flgと同等の処理”を実行します。
5.3.5 イベントフラグ詳細情報の参照
イベントフラグ詳細情報の参照は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- ref_flgiref_flg
パラメータflgidで指定されたイベントフラグのイベントフラグ詳細情報(待ちタスクの有無,現在ビット・パターンなど)をパラメータpk_rflgで指定された領域に格納します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        <kernel.h>              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        <kernel_id.h>           /*システム情報ヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void
 task ( VP_INT exinf )
 {
         ID      flgid = ID_FLG1;        /*変数の宣言,初期化*/
         T_RFLG  pk_rflg;                /*データ構造体の宣言*/
         ID      wtskid;                 /*変数の宣言*/
         FLGPTN  flgptn;                 /*変数の宣言*/
         ATR     flgatr;                 /*変数の宣言*/
 
         ............
         ............
 
         ref_flg ( flgid, &pk_rflg );    /*イベントフラグ詳細情報の参照*/
 
         wtskid = pk_rflg.wtskid;        /*待ちタスクの有無の獲得*/
         flgptn = pk_rflg.flgptn;        /*現在ビット・パターンの獲得*/
         flgatr = pk_rflg.flgatr;        /*属性の獲得*/
 
         ............
         ............
 }

備考 イベントフラグ詳細情報T_RFLGについての詳細は,「15.2.4 イベントフラグ詳細情報」を参照してください。