5.5 メールボックス
マルチタスク処理では,あるタスクの処理結果を他タスクに通知するといったタスク間の通信機能(メッセージの受け渡し機能)が必要となります。そこで,RI600V4では,共有されているメモリ領域に書き込まれたメッセージの先頭アドレス受け渡し機能として“メールボックス”を提供しています。
以下に,メールボックスを利用した場合の処理の流れを示します。
RI600V4では,処理プログラム間でメールボックスを介してやり取りされる情報を“メッセージ”と呼んでいます。
なお,メッセージは,メールボックスを介することにより任意の処理プログラムに対して送信することができますが,RI600V4における同期通信機能(メールボックス)では,メッセージの先頭アドレスを受信側処理プログラムに渡すだけであり,メッセージの内容が他領域にコピーされるわけではないので注意が必要です。
- メッセージの領域
RI600V4では,
get_mpf,
get_mplを発行して確保したメモリ領域をメッセージ用に使用することを推奨しています。
- メッセージの基本型
RI600V4では,メッセージの内容,長さについては,利用するメールボックスの属性により,以下の規定を設けています。
- TA_MFIFO属性のメールボックスを利用する場合
メッセージの先頭にはT_MSG構造体が必要です。この領域は,RI600V4が使用します。ユーザのメッセージは,T_MSG構造体以降に設定します。
ユーザのメッセージの長さについては,メールボックスを利用して情報のやり取りを行う処理プログラム間で規定することになります。
以下に,TA_MFIFO属性用メッセージを記述する場合の基本型を示します。
/* kernel.hで定義されているT_MSG構造体 */
typedef struct {
VP *msghead; /*RI600V4管理領域*/
} T_MSG;
/* ユーザが定義するメッセージ構造体 */
typedef struct user_msg {
T_MSG t_msg; /* T_MSG構造体 */
B data[8]; /* ユーザのメッセージ */
} USER_MSG;
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- TA_MPRI属性のメールボックスを利用する場合
メッセージの先頭にはT_MSG_PRI構造体が必要です。T_MSG_PRI.msgqueの領域は,RI600V4が使用します。T_MSG_PRI.msgpriには,メッセージの優先度を設定してください。ユーザのメッセージは,T_MSG_PRI構造体以降に設定します。
ユーザのメッセージの長さについては,メールボックスを利用して情報のやり取りを行う処理プログラム間で規定することになります
以下に,TA_MPRI属性用メッセージを記述する場合の基本型を示します。
/* kernel.hで定義されているT_MSG構造体 */
typedef struct {
VP *msghead; /*RI600V4管理領域*/
} T_MSG;
/* kernel.hで定義されているT_MSG_PRI構造体 */{
typedef struct {
T_MSG msgque; /* メッセージヘッダ*/
PRI msgpri; /* メッセージ優先度 */
} T_MSG_PRI;
/* ユーザが定義するメッセージ構造体 */
typedef struct user_msg {
T_MSG_PRI t_msg; /* T_MSG_PRI構造体 */
B data[8]; /* ユーザのメッセージ */
} USER_MSG;
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備考1 RI600V4におけるメッセージの優先度は,その値が小さいほど,高い優先度であることを意味します。
RI600V4では,メールボックスの静的な生成のみサポートしています。処理プログラムからサービス・コールを発行して動的に生成することはできません。
メールボックスの静的生成とは,システム・コンフィギュレーション・ファイルで静的API“mailbox[]”を使用してメールボックスを定義することをいいます。
メッセージの送信は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
-
snd_mbx,
isnd_mbx
パラメータ
mbxidで指定されたメールボックスにパラメータ
pk_msgで指定されたメッセージを送信します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象メールボックスの待ちキューにタスクがキューイングされていた場合には,メッセージの送信(メッセージのキューイング処理)は行わず,該当タスクにメッセージを渡します。これにより,該当タスクは,待ちキューから外れ,WAITING状態(メッセージ受信待ち状態)からREADY状態へ,またはWAITING-SUSPENDED状態からSUSPENDED状態へと遷移します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600が出力するヘッダ・ファイルの定義*/
void task ( VP_INT exinf )
{
ID mbxid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
T_MSG_PRI *pk_msg; /*データ構造体の宣言*/
............
............
............ /*メモリ領域(メッセージ用)を確保し,/
pk_msg = ... /*そのポインタをpk_msgに設定 */
............
............ /*本体(内容)の作成*/
............
pk_msg->msgpri = 8; /* メッセージ優先度を設定*/
/*メッセージの送信*/
snd_mbx ( mbxid, ( T_MSG * ) pk_msg );
............
............
}
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備考1 メッセージを対象メールボックスのメッセージ・キューにキューイングする際のキューイング方式は,コンフィギュレーション時に定義された順(FIFO順またはメッセージ優先度順)に行われます。
備考2 メッセージT_MSG,T_MSG_PRIについての詳細は,「
5.5.1 メッセージ」を参照してください。
メッセージの受信は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
-
rcv_mbx(待つ)
パラメータ
mbxidで指定されたメールボックスからメッセージを受信し,その先頭アドレスをパラメータ
ppk_msgで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象メールボックスからメッセージを受信することができなかった(待ちキューにメッセージがキューイングされていなかった)場合には,メッセージの受信は行わず,自タスクを対象メールボックスの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からWAITING状態(メッセージ受信待ち状態)へと遷移させます。
なお,メッセージ受信待ち状態の解除は,以下の場合に行われます。
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snd_mbxの発行により,対象メールボックスにメッセージが送信された。
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#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600が出力するヘッダ・ファイルの定義*/
void task ( VP_INT exinf )
{
ER ercd; /*変数の宣言*/
ID mbxid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
T_MSG *pk_msg; /*データ構造体の宣言*/
............
............
/*メッセージの受信*/
ercd = rcv_mbx ( mbxid, &pk_msg );
if ( ercd == E_OK ) {
............ /*正常終了処理*/
............
} else if ( ercd == E_RLWAI ) {
............ /*強制終了処理*/
............
}
............
}
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備考1 自タスクを対象メールボックスの待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,コンフィギュレーション時に定義された順(FIFO順または現在優先度順)に行われます。
備考2 メッセージT_MSG,T_MSG_PRIについての詳細は,「
5.5.1 メッセージ」を参照してください。
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prcv_mbx,
iprcv_mbx(ポーリング)
パラメータ
mbxidで指定されたメールボックスからメッセージを受信し,その先頭アドレスをパラメータ
ppk_msgで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象メールボックスからメッセージを受信することができなかった(待ちキューにメッセージがキューイングされていなかった)場合には,メッセージの受信は行わず,戻り値としてE_TMOUTを返します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600が出力するヘッダ・ファイルの定義*/
void task ( VP_INT exinf )
{
ER ercd; /*変数の宣言*/
ID mbxid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
T_MSG *pk_msg; /*データ構造体の宣言*/
............
............
/*メッセージの受信*/
ercd = prcv_mbx ( mbxid, &pk_msg );
if ( ercd == E_OK ) {
............ /*ポーリング成功処理*/
............
} else if ( ercd == E_TMOUT ) {
............ /*ポーリング失敗処理*/
............
}
............
............
}
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備考 メッセージT_MSG,T_MSG_PRIについての詳細は,「
5.5.1 メッセージ」を参照してください。
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trcv_mbxタイムアウト付きで待つ)
パラメータ
mbxidで指定されたメールボックスからメッセージを受信し,その先頭アドレスをパラメータ
ppk_msgで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象メールボックスからメッセージを受信することができなかった(待ちキューにメッセージがキューイングされていなかった)場合には,メッセージの受信は行わず,自タスクを対象メールボックスの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からタイムアウト付きのWAITING状態(メッセージ受信待ち状態)へと遷移させます。
なお,メッセージ受信待ち状態の解除は,以下の場合に行われます。
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snd_mbxの発行により,対象メールボックスにメッセージが送信された。
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パラメータ tmoutで指定された待ち時間が経過した。
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#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600が出力するヘッダ・ファイルの定義*/
void task ( VP_INT exinf )
{
ER ercd; /*変数の宣言*/
ID mbxid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
T_MSG *pk_msg; /*データ構造体の宣言*/
TMO tmout = 3600; /*変数の宣言,初期化*/
............
/*メッセージの受信*/
ercd = trcv_mbx ( mbxid, &pk_msg, tmout );
if ( ercd == E_OK ) {
............ /*正常終了処理*/
} else if ( ercd == E_RLWAI ) {
............ /*強制終了処理*/
............
} else if ( ercd == E_TMOUT ) {
............ /*タイムアウト処理*/
}
............
}
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備考1 自タスクを対象メールボックスの待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,コンフィギュレーション時に定義された順(FIFO順または現在優先度順)に行われます。
備考3 メッセージT_MSG,T_MSG_PRIについての詳細は,「
5.5.1 メッセージ」を参照してください。
メールボックス詳細情報の参照は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
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ref_mbx,
iref_mbx
パラメータ
mbxidで指定されたメールボックスのメールボックス詳細情報(待ちタスクの有無,待ちメッセージの有無)をパラメータ
pk_rmbxで指定された領域に格納します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600が出力するヘッダ・ファイルの定義*/
void task ( VP_INT exinf )
{
ID mbxid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
T_RMBX pk_rmbx; /*データ構造体の宣言*/
ID wtskid; /*変数の宣言*/
T_MSG *pk_msg; /*データ構造体の宣言*/
............
............
ref_mbx ( mbxid, &pk_rmbx ); /*メールボックス詳細情報の参照*/
wtskid = pk_rmbx.wtskid; /*待ちタスクの有無の獲得*/
pk_msg = pk_rmbx.pk_msg; /*待ちメッセージの有無の獲得*/
............
............
}
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