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第7章  同期通信機能


本章では,RI600PXが提供している同期通信機能について解説しています。
7.1 概  要
RI600PXにおける同期通信機能では,タスク間の排他制御,同期,通信を実現する手段としてセマフォイベントフラグデータ・キューメールボックスを提供しています。
7.2 セマフォ
マルチタスク処理では,並行に動作するタスクが限られた数の資源(A/Dコンバータ,コプロセッサ,ファイルなど)を同時に使用するといった資源使用の競合を防ぐ機能(排他制御機能)が必要となります。そこで,RI600PXでは,このような資源使用の競合を防ぐ機能として“非負数の計数型セマフォ”を提供しています。
以下に,セマフォを利用した場合の処理の流れを示します。
図7-1  処理の流れ(セマフォ)
7.2.1 セマフォの生成
セマフォは,以下のいずれかの方法で生成します。
1 ) システム・コンフィギュレーション・ファイルによる生成
システム・コンフィギュレーション・ファイルで静的API“semaphore[]”を使用してセマフォを生成します。
静的API“semaphore[]”の詳細は,「20.11 セマフォ情報(semaphore[])」を参照してください。
2 ) cre_semまたはacre_semサービスコールによる生成
cre_semは,パラメータpk_csemが指す領域に設定されたセマフォ生成情報にしたがって,パラメータsemidで指定されたセマフォIDのタスクを生成します。
acre_semは,パラメータpk_csemが指す領域に設定されたセマフォ生成情報にしたがってセマフォ生成し,生成されたセマフォIDを返します。
指定するセマフォ生成情報は,以下の通りです。
- セマフォ属性(sematr
以下を指定します。
- タスク待ちキューの順序(FIFO順またはタスクの現在優先度順)
- セマフォ資源数の初期値(isemcnt
- セマフォ資源数の最大値(maxsem
これらのサービス・コールは,信頼されたドメインに所属するタスクだけが呼び出せます。
以下に,代表としてacre_semの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ID      semid;                  /*変数の宣言*/
         T_CSEM  pk_csem = {             /*変数の宣言,初期化*/
                          TA_TFIFO,          /*セマフォ属性(sematr)*/
                          1,                 /*セマフォ資源数の初期値(isemcnt)*/
                          1                  /* セマフォ資源数の最大値(maxsem)*/
        };
         ............
         ............
         semid = acre_sem ( &pk_csem );   /*セマフォの生成*/
         ............
         ............
 }

備考 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
7.2.2 セマフォの削除
- del_sem
del_semは,パラメータsemidで指定されたセマフォを削除します。
対象セマフォでwai_semまたはtwai_semによって待っているタスクがある場合は,そのタスク待ち状態を解除し,wai_semまたはtwai_semの戻り値としてE_DLTを返します。
本サービス・コールは,信頼されたドメインに所属するタスクだけが呼び出せます。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ID      semid = 8;              /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         del_sem( semid );               /*セマフォの削除*/
 }

備考 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
7.2.3 資源の獲得
資源の獲得は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- wai_sem(待つ)
- pol_semipol_sem(ポーリング)
- twai_sem(タイムアウト付きで待つ)
- wai_sem(待つ)
パラメータsemidで指定されたセマフォから資源を獲得(セマフォ・カウンタから1を減算)します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象セマフォから資源を獲得することができなかった(空き資源が存在しなかった)場合には,資源の獲得は行わず,自タスクを対象セマフォの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からWAITING状態(資源獲得待ち状態)へと遷移させます。
なお,資源獲得待ち状態の解除は,以下の場合に行われます。
 
資源獲得待ち状態の解除操作
戻り値
sig_semの発行により,対象セマフォに資源が返却された。
E_OK
isig_semの発行により,対象セマフォに資源が返却された。
E_OK
rel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_RLWAI
irel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_RLWAI
del_semの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_DLT

以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      semid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
 
         ercd = wai_sem ( semid );       /*資源の獲得*/
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
 
                 sig_sem ( semid );      /*資源の返却*
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
         }
         ............
 }

備考1 自タスクを対象セマフォの待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,セマフォの生成時に指定した順(FIFO順または現在優先度順)に行われます。
備考2 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
- pol_semipol_sem(ポーリング)
パラメータsemidで指定されたセマフォから資源を獲得(セマフォ・カウンタから1を減算)します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象セマフォから資源を獲得することができなかった(空き資源が存在しなかった)場合には,資源の獲得は行わず,戻り値としてE_TMOUTを返します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      semid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
 
         ercd = pol_sem ( semid );       /*資源の獲得*/
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*ポーリング成功処理*/
 
                 sig_sem ( semid );      /*資源の返却*
         } else if ( ercd == E_TMOUT ) {
                 ............            /*ポーリング失敗処理*/
         }
         ............
 }

備考 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
- twai_sem(タイムアウト付きで待つ)
パラメータsemidで指定されたセマフォから資源を獲得(セマフォ・カウンタから1を減算)します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象セマフォから資源を獲得することができなかった(空き資源が存在しなかった)場合には,資源の獲得は行わず,自タスクを対象セマフォの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からタイムアウト付きのWAITING状態(資源獲得待ち状態)へと遷移させます。
なお,資源獲得待ち状態の解除は,以下の場合に行われます。
 
資源獲得待ち状態の解除操作
戻り値
sig_semの発行により,対象セマフォに資源が返却された。
E_OK
isig_semの発行により,対象セマフォに資源が返却された。
E_OK
rel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_RLWAI
irel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_RLWAI
パラメータtmoutで指定された待ち時間が経過した。
E_TMOUT
del_semの発行により,待ち状態を強制的に解除された
E_DLT

以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考3参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考3参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      semid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
         TMO     tmout = 3600;           /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
 
                                         /*資源の獲得*/
         ercd = twai_sem ( semid, tmout );
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
 
                 sig_sem ( semid );      /*資源の返却*
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
         } else if ( ercd == E_TMOUT ) {
                 ............            /*タイムアウト処理*/
         }
         ............
 }

備考1 自タスクを対象セマフォの待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,セマフォの生成時に指定した順(FIFO順または現在優先度順)に行われます。
備考2 待ち時間tmoutTMO_FEVRが指定された際には“wai_semと同等の処理”を,TMO_POLが指定された際には“pol_semと同等の処理”を実行します。
備考3 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
7.2.4 資源の返却
資源の返却は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- sig_semisig_sem
パラメータsemidで指定されたセマフォに資源を返却(セマフォ・カウンタに1を加算)します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象セマフォの待ちキューにタスクがキューイングされていた場合には,資源の返却(セマフォ・カウンタの加算処理)は行わず,該当タスク(待ちキューの先頭タスク)に資源を渡します。これにより,該当タスクは,待ちキューから外れ,WAITING状態(資源獲得待ち状態)からREADY状態へ,またはWAITING-SUSPENDED状態からSUSPENDED状態へと遷移します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      semid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         ercd = wai_sem ( semid );       /*資源の獲得*/
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
                 ............
 
                 sig_sem ( semid );      /*資源の返却*
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }

備考1 RI600PXでは,セマフォの資源数として取り得る最大値(最大資源数)をコンフィギュレーション時に定義させています。このため,本サービス・コールでは,資源数が最大資源数を超える場合には,資源の返却(セマフォ・カウンタの加算処理)は行わず,戻り値としてE_QOVRを返します。
備考2 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
7.2.5 セマフォ詳細情報の参照
セマフォ詳細情報の参照は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- ref_semiref_sem
パラメータsemidで指定されたセマフォのセマフォ詳細情報(待ちタスクの有無,現在資源数)をパラメータpk_rsemで指定された領域に格納します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ID      semid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
         T_RSEM  pk_rsem;                /*データ構造体の宣言*/
         ID      wtskid;                 /*変数の宣言*/
         UINT    semcnt;                 /*変数の宣言*/
 
         ............
         ............
 
         ref_sem ( semid, &pk_rsem );    /*セマフォ詳細情報の参照*/
 
         wtskid = pk_rsem.wtskid;        /*待ちタスクの有無の獲得*/
         semcnt = pk_rsem.semcnt;        /*現在資源数の獲得*/
 
         ............
         ............
 }

備考1 セマフォ詳細情報T_RSEMについての詳細は,「【 セマフォ詳細情報T_RSEMの構造 】」を参照してください。
備考2 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。