7.3 イベントフラグ
マルチタスク処理では,あるタスクの処理結果が出るまでの間,他タスクが処理の実行を待つといったタスク間の待ち合わせ機能(事象の発生有無を判断できる機能)が必要となります。そこで,RI600PXでは,このようなタスク間の待ち合わせ機能として“32ビット幅のイベントフラグ”を提供しています。
以下に,イベントフラグを利用した場合の処理の流れを示します。
イベントフラグは,以下のいずれかの方法で生成します。
1 ) システム・コンフィギュレーション・ファイルによる生成
システム・コンフィギュレーション・ファイルで静的API“flag[]”を使用してイベントフラグを生成します。
静的API“flag[]”の詳細は,「
20.12 イベントフラグ情報(flag[])」を参照してください。
2 )
cre_flgまたは
acre_flgサービスコールによる生成
cre_flgは,パラメータ
pk_cflgが指す領域に設定されたイベントフラグ生成情報にしたがって,パラメータ
flgidで指定されたイベントフラグIDのイベントフラグを生成します。
acre_flgは,パラメータ
pk_cflgが指す領域に設定されたイベントフラグ生成情報にしたがってイベントフラグを生成し,生成されたイベントフラグIDを返します。
指定するイベントフラグ生成情報は,以下の通りです。
- イベントフラグ属性(
flgatr)
以下を指定します。
- タスク待ちキューの順序(FIFO順またはタスクの現在優先度順)
- イベントフラグに対して複数のタスクが待つことを禁止するかどうか
- 待ち解除時にイベントフラグのビット・パターンを0クリアするかどうか
以下に,代表としてacre_flgの記述例を示します。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
#pragma task Task1 /*備考参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf ); /*備考参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf )
{
ID flgid; /*変数の宣言*/
T_CFLG pk_cflg = { /*変数の宣言,初期化*/
TA_TFIFO|TA_WSGL|TA_CLR, /*イベントフラグ属性(flgatr)*/
0UL /*初期ビット・パターン(iflgptn)*/
};
............
............
flgid = acre_flg ( &pk_cflg ); /*イベントフラグ生成*/
............
............
}
|
備考 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
#pragma task Task1 /*備考参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf ); /*備考参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf )
{
ID flgid = 8; /*変数の宣言,初期化*/
............
............
del_flg( flgid ); /*イベントフラグの削除*/
}
|
備考 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
ビット・パターンのセットは,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
-
set_flg,
iset_flg
パラメータ
flgidで指定されたイベントフラグのビット・パターンとパラメータ
setptnで指定されたビット・パターンの論理和ORをとり,その結果を対象イベントフラグにセットします。
そして,待ちキューの順に待ちキューにつながれているタスクの待ち解除条件を満たすかどうかを調べます。待ち解除条件を満たせば,該当タスクを待ちキューから外し,WAITING状態(イベントフラグ待ち状態)からREADY状態へ,またはWAITING-SUSPENDED状態からSUSPENDED状態へと遷移させます。このとき,対象のイベントフラグ属性にTA_CLR属性が指定されている場合には,イベントフラグのビット・パターンを0クリアし,処理を終了します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
#pragma task Task1 /*備考参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf ); /*備考参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf )
{
ID flgid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
FLGPTN setptn = 0x00000001UL; /*変数の宣言,初期化*/
............
............
set_flg ( flgid, setptn ); /*ビット・パターンのセット*/
............
............
}
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備考 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
ビット・パターンのクリアは,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
-
clr_flg,
iclr_flg
パラメータ
flgidで指定されたイベントフラグのビット・パターンとパラメータ
clrptnで指定されたビット・パターンの論理積ANDをとり,その結果を対象イベントフラグに設定します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
#pragma task Task1 /*備考参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf ); /*備考参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf )
{
ID flgid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
FLGPTN clrptn = 0xFFFFFFFEUL; /*変数の宣言,初期化*/
............
............
clr_flg ( flgid, clrptn ); /*ビット・パターンのクリア*/
............
............
}
|
備考 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
ビット・パターンのチェックは,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
-
wai_flg(待つ)
パラメータ
waiptnで指定された要求ビット・パターンとパラメータ
wfmodeで指定された要求条件を満足するビット・パターンがパラメータ
flgidで指定されたイベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
なお,要求条件を満足するビット・パターンが対象イベントフラグに設定されていた場合には,対象イベントフラグのビット・パターンをパラメータ
p_flgptnで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグのビット・パターンが要求条件を満足していなかった場合には,自タスクを対象イベントフラグの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からWAITING状態(イベントフラグ待ち状態)へと遷移させます。
なお,イベントフラグ待ち状態の解除は,以下の場合に行われます。
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set_flgの発行により,対象イベントフラグに要求条件を満足するビット・パターンが設定された。
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iset_flgの発行により,対象イベントフラグに要求条件を満足するビット・パターンが設定された。
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以下に,要求条件
wfmodeの指定形式を示します。
-
wfmode =
TWF_ANDW
waiptnで1を設定している全ビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
-
wfmode =
TWF_ORW
waiptnで1を設定しているビットのうち,いずれかのビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
#pragma task Task1 /*備考4参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf ); /*備考4参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf )
{
ER ercd; /*変数の宣言*/
ID flgid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
FLGPTN waiptn = 14; /*変数の宣言,初期化*/
MODE wfmode = TWF_ANDW; /*変数の宣言,初期化*/
FLGPTN p_flgptn; /*変数の宣言*/
............
............
/*ビット・パターンのチェック*/
ercd = wai_flg ( flgid, waiptn, wfmode, &p_flgptn );
if ( ercd == E_OK ) {
............ /*正常終了処理*/
............
} else if ( ercd == E_RLWAI ) {
............ /*強制終了処理*/
............
}
............
............
}
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備考1
TA_WSGL属性(複数タスクの待ちを許さない)を指定して生成されたイベントフラグに,すでに待ちタスクがキューイングされている場合,本サービス・コールはE_ILUSEエラーを返します。
備考2 自タスクを対象イベントフラグ(
TA_WMUL属性)の待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,イベントフラグ生成時に指定した順(FIFO順または現在優先度順)に行われます。
ただし,
TA_CLR属性が指定されていない場合は,優先度順の指定の場合でもFIFO順に行われます。この振る舞いは,μITRON4.0仕様の範囲外です。
備考3 対象イベントフラグ(
TA_CLR属性)の要求条件が満足した際,RI600PXはビット・パターンのクリア(0の設定)を行います。
備考4 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
-
pol_flg,
ipol_flg(ポーリング)
パラメータ
waiptnで指定された要求ビット・パターンとパラメータ
wfmodeで指定された要求条件を満足するビット・パターンがパラメータ
flgidで指定されたイベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
なお,要求条件を満足するビット・パターンが対象イベントフラグに設定されていた場合には,対象イベントフラグのビット・パターンをパラメータ
p_flgptnで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグのビット・パターンが要求条件を満足していなかった場合には,戻り値としてE_TMOUTを返します。
以下に,要求条件
wfmodeの指定形式を示します。
-
wfmode =
TWF_ANDW
waiptnで1を設定している全ビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
-
wfmode =
TWF_ORW
waiptnで1を設定しているビットのうち,いずれかのビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
#pragma task Task1 /*備考3参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf ); /*備考3参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf )
{
ER ercd; /*変数の宣言*/
ID flgid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
FLGPTN waiptn = 14; /*変数の宣言,初期化*/
MODE wfmode = TWF_ANDW; /*変数の宣言,初期化*/
FLGPTN p_flgptn; /*変数の宣言*/
............
............
/*ビット・パターンのチェック*/
ercd = pol_flg ( flgid, waiptn, wfmode, &p_flgptn );
if ( ercd == E_OK ) {
............ /*ポーリング成功処理*/
............
} else if ( ercd == E_TMOUT ) {
............ /*ポーリング失敗処理*/
............
}
............
............
}
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備考1
TA_WSGL属性(複数タスクの待ちを許さない)を指定して生成されたイベントフラグに,すでに待ちタスクがキューイングされている場合,本サービス・コールはE_ILUSEエラーを返します。
備考2 対象イベントフラグ(
TA_CLR属性)の要求条件が満足した際,RI600PXはビット・パターンのクリア(0の設定)を行います。
備考3 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
-
twai_flg(タイムアウト付きで待つ)
パラメータ
waiptnで指定された要求ビット・パターンとパラメータ
wfmodeで指定された要求条件を満足するビット・パターンがパラメータ
flgidで指定されたイベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
なお,要求条件を満足するビット・パターンが対象イベントフラグに設定されていた場合には,対象イベントフラグのビット・パターンをパラメータ
p_flgptnで指定された領域に格納します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象イベントフラグのビット・パターンが要求条件を満足していなかった場合には,自タスクを対象イベントフラグの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からタイムアウト付きのWAITING状態(イベントフラグ待ち状態)へと遷移させます。
なお,イベントフラグ待ち状態の解除は,以下の場合に行われます。
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set_flgの発行により,対象イベントフラグに要求条件を満足するビット・パターンが設定された。
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iset_flgの発行により,対象イベントフラグに要求条件を満足するビット・パターンが設定された。
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パラメータ tmoutで指定された待ち時間が経過した。
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以下に,要求条件
wfmodeの指定形式を示します。
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wfmode =
TWF_ANDW
waiptnで1を設定している全ビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
-
wfmode =
TWF_ORW
waiptnで1を設定しているビットのうち,いずれかのビットが対象イベントフラグに設定されているか否かをチェックします。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
#pragma task Task1 /*備考5参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf ); /*備考5参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf )
{
ER ercd; /*変数の宣言*/
ID flgid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
FLGPTN waiptn = 14; /*変数の宣言,初期化*/
MODE wfmode = TWF_ANDW; /*変数の宣言,初期化*/
FLGPTN p_flgptn; /*変数の宣言*/
TMO tmout = 3600; /*変数の宣言,初期化*/
............
............
/*ビット・パターンのチェック*/
ercd = twai_flg ( flgid, waiptn, wfmode, &p_flgptn, tmout );
if ( ercd == E_OK ) {
............ /*正常終了処理*/
............
} else if ( ercd == E_RLWAI ) {
............ /*強制終了処理*/
............
} else if ( ercd == E_TMOUT ) {
............ /*タイムアウト処理*/
............
}
............
............
}
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備考1
TA_WSGL属性(複数タスクの待ちを許さない)を指定して生成されたイベントフラグに,すでに待ちタスクがキューイングされている場合,本サービス・コールはE_ILUSEエラーを返します。
備考2 自タスクを対象イベントフラグ(
TA_WMUL属性)の待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,イベントフラグ生成時に指定した順(FIFO順または現在優先度順)に行われます。
ただし,
TA_CLR属性が指定されていない場合は,優先度順の指定の場合でもFIFO順に行われます。この振る舞いは,μITRON4.0仕様の範囲外です。
備考3 対象イベントフラグ(
TA_CLR属性)の要求条件が満足した際,RI600PXはビット・パターンのクリア(0の設定)を行います。
備考5 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
イベントフラグ詳細情報の参照は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
-
ref_flg,
iref_flg
パラメータ
flgidで指定されたイベントフラグのイベントフラグ詳細情報(待ちタスクの有無,現在ビット・パターン)をパラメータ
pk_rflgで指定された領域に格納します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
#pragma task Task1 /*備考2参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf ); /*備考2参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf )
{
ID flgid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
T_RFLG pk_rflg; /*データ構造体の宣言*/
ID wtskid; /*変数の宣言*/
FLGPTN flgptn; /*変数の宣言*/
............
............
ref_flg ( flgid, &pk_rflg ); /*イベントフラグ詳細情報の参照*/
wtskid = pk_rflg.wtskid; /*待ちタスクの有無の獲得*/
flgptn = pk_rflg.flgptn; /*現在ビット・パターンの獲得*/
............
............
}
|
備考2 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。