第7章 同期通信機能
本章では,RI600PXが提供している同期通信機能について解説しています。
マルチタスク処理では,並行に動作するタスクが限られた数の資源(A/Dコンバータ,コプロセッサ,ファイルなど)を同時に使用するといった資源使用の競合を防ぐ機能(排他制御機能)が必要となります。そこで,RI600PXでは,このような資源使用の競合を防ぐ機能として“非負数の計数型セマフォ”を提供しています。
以下に,セマフォを利用した場合の処理の流れを示します。
1 ) システム・コンフィギュレーション・ファイルによる生成
システム・コンフィギュレーション・ファイルで静的API“semaphore[]”を使用してセマフォを生成します。
静的API“semaphore[]”の詳細は,「
20.11 セマフォ情報(semaphore[])」を参照してください。
2 )
cre_semまたは
acre_semサービスコールによる生成
cre_semは,パラメータ
pk_csemが指す領域に設定されたセマフォ生成情報にしたがって,パラメータ
semidで指定されたセマフォIDのタスクを生成します。
acre_semは,パラメータ
pk_csemが指す領域に設定されたセマフォ生成情報にしたがってセマフォ生成し,生成されたセマフォIDを返します。
指定するセマフォ生成情報は,以下の通りです。
- セマフォ属性(
sematr)
以下を指定します。
- タスク待ちキューの順序(FIFO順またはタスクの現在優先度順)
以下に,代表としてacre_semの記述例を示します。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
#pragma task Task1 /*備考参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf ); /*備考参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf )
{
ID semid; /*変数の宣言*/
T_CSEM pk_csem = { /*変数の宣言,初期化*/
TA_TFIFO, /*セマフォ属性(sematr)*/
1, /*セマフォ資源数の初期値(isemcnt)*/
1 /* セマフォ資源数の最大値(maxsem)*/
};
............
............
semid = acre_sem ( &pk_csem ); /*セマフォの生成*/
............
............
}
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備考 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
#pragma task Task1 /*備考参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf ); /*備考参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf )
{
ID semid = 8; /*変数の宣言,初期化*/
............
............
del_sem( semid ); /*セマフォの削除*/
}
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備考 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
資源の獲得は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
-
wai_sem(待つ)
パラメータ
semidで指定されたセマフォから資源を獲得(セマフォ・カウンタから1を減算)します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象セマフォから資源を獲得することができなかった(空き資源が存在しなかった)場合には,資源の獲得は行わず,自タスクを対象セマフォの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からWAITING状態(資源獲得待ち状態)へと遷移させます。
なお,資源獲得待ち状態の解除は,以下の場合に行われます。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
#pragma task Task1 /*備考2参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf ); /*備考2参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf )
{
ER ercd; /*変数の宣言*/
ID semid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
............
ercd = wai_sem ( semid ); /*資源の獲得*/
if ( ercd == E_OK ) {
............ /*正常終了処理*/
sig_sem ( semid ); /*資源の返却*
} else if ( ercd == E_RLWAI ) {
............ /*強制終了処理*/
}
............
}
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備考1 自タスクを対象セマフォの待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,
セマフォの生成時に指定した順(FIFO順または現在優先度順)に行われます。
備考2 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
-
pol_sem,
ipol_sem(ポーリング)
パラメータ
semidで指定されたセマフォから資源を獲得(セマフォ・カウンタから1を減算)します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象セマフォから資源を獲得することができなかった(空き資源が存在しなかった)場合には,資源の獲得は行わず,戻り値としてE_TMOUTを返します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
#pragma task Task1 /*備考参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf ); /*備考参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf )
{
ER ercd; /*変数の宣言*/
ID semid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
............
ercd = pol_sem ( semid ); /*資源の獲得*/
if ( ercd == E_OK ) {
............ /*ポーリング成功処理*/
sig_sem ( semid ); /*資源の返却*
} else if ( ercd == E_TMOUT ) {
............ /*ポーリング失敗処理*/
}
............
}
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備考 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
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twai_sem(タイムアウト付きで待つ)
パラメータ
semidで指定されたセマフォから資源を獲得(セマフォ・カウンタから1を減算)します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象セマフォから資源を獲得することができなかった(空き資源が存在しなかった)場合には,資源の獲得は行わず,自タスクを対象セマフォの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からタイムアウト付きのWAITING状態(資源獲得待ち状態)へと遷移させます。
なお,資源獲得待ち状態の解除は,以下の場合に行われます。
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パラメータ tmoutで指定された待ち時間が経過した。
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#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
#pragma task Task1 /*備考3参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf ); /*備考3参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf )
{
ER ercd; /*変数の宣言*/
ID semid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
TMO tmout = 3600; /*変数の宣言,初期化*/
............
/*資源の獲得*/
ercd = twai_sem ( semid, tmout );
if ( ercd == E_OK ) {
............ /*正常終了処理*/
sig_sem ( semid ); /*資源の返却*
} else if ( ercd == E_RLWAI ) {
............ /*強制終了処理*/
} else if ( ercd == E_TMOUT ) {
............ /*タイムアウト処理*/
}
............
}
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備考1 自タスクを対象セマフォの待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,
セマフォの生成時に指定した順(FIFO順または現在優先度順)に行われます。
備考3 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
資源の返却は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
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sig_sem,
isig_sem
パラメータ
semidで指定されたセマフォに資源を返却(セマフォ・カウンタに1を加算)します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象セマフォの待ちキューにタスクがキューイングされていた場合には,資源の返却(セマフォ・カウンタの加算処理)は行わず,該当タスク(待ちキューの先頭タスク)に資源を渡します。これにより,該当タスクは,待ちキューから外れ,WAITING状態(資源獲得待ち状態)からREADY状態へ,またはWAITING-SUSPENDED状態からSUSPENDED状態へと遷移します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
#pragma task Task1 /*備考2参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf ); /*備考2参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf )
{
ER ercd; /*変数の宣言*/
ID semid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
............
............
ercd = wai_sem ( semid ); /*資源の獲得*/
if ( ercd == E_OK ) {
............ /*正常終了処理*/
............
sig_sem ( semid ); /*資源の返却*
} else if ( ercd == E_RLWAI ) {
............ /*強制終了処理*/
............
}
............
............
}
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備考1 RI600PXでは,セマフォの資源数として取り得る最大値(最大資源数)をコンフィギュレーション時に定義させています。このため,本サービス・コールでは,資源数が最大資源数を超える場合には,資源の返却(セマフォ・カウンタの加算処理)は行わず,戻り値としてE_QOVRを返します。
備考2 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
セマフォ詳細情報の参照は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
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ref_sem,
iref_sem
パラメータ
semidで指定されたセマフォのセマフォ詳細情報(待ちタスクの有無,現在資源数)をパラメータ
pk_rsemで指定された領域に格納します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
#include "kernel.h" /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
#include "kernel_id.h" /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
#pragma task Task1 /*備考2参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf ); /*備考2参照*/
void Task1 ( VP_INT exinf )
{
ID semid = 1; /*変数の宣言,初期化*/
T_RSEM pk_rsem; /*データ構造体の宣言*/
ID wtskid; /*変数の宣言*/
UINT semcnt; /*変数の宣言*/
............
............
ref_sem ( semid, &pk_rsem ); /*セマフォ詳細情報の参照*/
wtskid = pk_rsem.wtskid; /*待ちタスクの有無の獲得*/
semcnt = pk_rsem.semcnt; /*現在資源数の獲得*/
............
............
}
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備考2 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。