第5章  同期通信機能


本章では,RI600V4が提供している同期通信機能について解説しています。

5.1 概  要

RI600V4における同期通信機能では,タスク間の排他制御,同期,通信を実現する手段としてセマフォイベントフラグデータ・キューメールボックスを提供しています。

5.2 セマフォ

マルチタスク処理では,並行に動作するタスクが限られた数の資源(A/Dコンバータ,コプロセッサ,ファイルなど)を同時に使用するといった資源使用の競合を防ぐ機能(排他制御機能)が必要となります。そこで,RI600V4では,このような資源使用の競合を防ぐ機能として“非負数の計数型セマフォ”を提供しています。

以下に,セマフォを利用した場合の処理の流れを示します。

図5−1  処理の流れ(セマフォ)



5.2.1 セマフォの生成

RI600V4では,セマフォの静的な生成のみサポートしています。処理プログラムからサービス・コールを発行して動的に生成することはできません。

セマフォの静的生成とは,システム・コンフィギュレーション・ファイルで静的API“semaphore[]”を使用してセマフォを定義することをいいます。

静的API“semaphore[]”の詳細は,「19.8 セマフォ情報(semaphore[])」を参照してください。

5.2.2 資源の獲得

資源の獲得は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。

- wai_sem(待つ)

- pol_semipol_sem(ポーリング)

- twai_sem(タイムアウト付きで待つ)

- wai_sem(待つ)
パラメータsemidで指定されたセマフォから資源を獲得(セマフォ・カウンタから1を減算)します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象セマフォから資源を獲得することができなかった(空き資源が存在しなかった)場合には,資源の獲得は行わず,自タスクを対象セマフォの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からWAITING状態(資源獲得待ち状態)へと遷移させます。
なお,資源獲得待ち状態の解除は,以下の場合に行われます。




 
資源獲得待ち状態の解除操作

戻り値

sig_semの発行により,対象セマフォに資源が返却された。

E_OK

isig_semの発行により,対象セマフォに資源が返却された。

E_OK

rel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。

E_RLWAI

irel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。

E_RLWAI



以下に,本サービス・コールの記述例を示します。

 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600が出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      semid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         ercd = wai_sem ( semid );       /*資源の獲得*/
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
 
                 sig_sem ( semid );      /*資源の返却*
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }


備考 自タスクを対象セマフォの待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,コンフィギュレーション時に定義された順(FIFO順または現在優先度順)に行われます。

- pol_semipol_sem(ポーリング)
パラメータsemidで指定されたセマフォから資源を獲得(セマフォ・カウンタから1を減算)します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象セマフォから資源を獲得することができなかった(空き資源が存在しなかった)場合には,資源の獲得は行わず,戻り値としてE_TMOUTを返します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。




 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600が出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      semid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         ercd = pol_sem ( semid );       /*資源の獲得*/
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*ポーリング成功処理*/
 
                 sig_sem ( semid );      /*資源の返却*
         } else if ( ercd == E_TMOUT ) {
                 ............            /*ポーリング失敗処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }


- twai_sem(タイムアウト付きで待つ)
パラメータsemidで指定されたセマフォから資源を獲得(セマフォ・カウンタから1を減算)します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象セマフォから資源を獲得することができなかった(空き資源が存在しなかった)場合には,資源の獲得は行わず,自タスクを対象セマフォの待ちキューにキューイングしたのち,RUNNING状態からタイムアウト付きのWAITING状態(資源獲得待ち状態)へと遷移させます。
なお,資源獲得待ち状態の解除は,以下の場合に行われます。




 
資源獲得待ち状態の解除操作

戻り値

sig_semの発行により,対象セマフォに資源が返却された。

E_OK

isig_semの発行により,対象セマフォに資源が返却された。

E_OK

rel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。

E_RLWAI

irel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。

E_RLWAI

パラメータtmoutで指定された待ち時間が経過した。

E_TMOUT



以下に,本サービス・コールの記述例を示します。

 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600が出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      semid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
         TMO     tmout = 3600;           /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
                                         /*資源の獲得*/
         ercd = twai_sem ( semid, tmout );
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
 
                 sig_sem ( semid );      /*資源の返却*
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
                 ............
         } else if ( ercd == E_TMOUT ) {
                 ............            /*タイムアウト処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }


備考1 自タスクを対象セマフォの待ちキューにキューイングする際のキューイング方式は,コンフィギュレーション時に定義された順(FIFO順または現在優先度順)に行われます。

備考2 待ち時間tmoutTMO_FEVRが指定された際には“wai_semと同等の処理”を,TMO_POLが指定された際には“pol_semと同等の処理”を実行します。

5.2.3 資源の返却

資源の返却は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。

- sig_semisig_sem
パラメータsemidで指定されたセマフォに資源を返却(セマフォ・カウンタに1を加算)します。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象セマフォの待ちキューにタスクがキューイングされていた場合には,資源の返却(セマフォ・カウンタの加算処理)は行わず,該当タスク(待ちキューの先頭タスク)に資源を渡します。これにより,該当タスクは,待ちキューから外れ,WAITING状態(資源獲得待ち状態)からREADY状態へ,またはWAITING-SUSPENDED状態からSUSPENDED状態へと遷移します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。



 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600が出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void task ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      semid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         ercd = wai_sem ( semid );       /*資源の獲得*/
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
                 ............
 
                 sig_sem ( semid );      /*資源の返却*
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }


備考 RI600V4では,セマフォの資源数として取り得る最大値(最大資源数)をコンフィギュレーション時に定義させています。このため,本サービス・コールでは,資源数が最大資源数を超える場合には,資源の返却(セマフォ・カウンタの加算処理)は行わず,戻り値としてE_QOVRを返します。

5.2.4 セマフォ詳細情報の参照

セマフォ詳細情報の参照は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。

- ref_semiref_sem
パラメータsemidで指定されたセマフォのセマフォ詳細情報(待ちタスクの有無,現在資源数)をパラメータpk_rsemで指定された領域に格納します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。


 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600が出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 
 void task ( VP_INT exinf )
 {
         ID      semid = 1;              /*変数の宣言,初期化*/
         T_RSEM  pk_rsem;                /*データ構造体の宣言*/
         ID      wtskid;                 /*変数の宣言*/
         UINT    semcnt;                 /*変数の宣言*/
 
         ............
         ............
 
         ref_sem ( semid, &pk_rsem );    /*セマフォ詳細情報の参照*/
 
         wtskid = pk_rsem.wtskid;        /*待ちタスクの有無の獲得*/
         semcnt = pk_rsem.semcnt;        /*現在資源数の獲得*/
 
         ............
         ............
 }


備考 セマフォ詳細情報T_RSEMについての詳細は,「【 セマフォ詳細情報T_RSEMの構造 】」を参照してください。