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第5章  タスク付属同期機能


本章では,RI600PXが提供しているタスク付属同期機能について解説しています。
5.1 概  要
RI600PXにおけるタスク付属同期機能では,タスクに従属した同期機能を提供しています。
5.2 起床待ち状態への移行
5.2.1 永久待ち
起床待ち状態への移行(永久待ち)は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- slp_tsk
自タスクをRUNNING状態からWAITING状態(起床待ち状態)へと遷移させます。
ただし,本サービス・コールを発行した際,自タスクの起床要求がキューイングされていた(起床要求カウンタ > 0)場合には,状態操作処理は行わず,起床要求カウンタから1を減算します。
なお,起床待ち状態の解除は,以下の場合に行われます。
 
起床待ち状態の解除操作
戻り値
wup_tskの発行により,起床要求が発行された。
E_OK
iwup_tskの発行により,起床要求が発行された。
E_OK
rel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_RLWAI
irel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_RLWAI

以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
 
         ............
         ercd = slp_tsk ( );             /*起床待ち状態への移行(永久待ち)*/
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
         }
         ............
 }

備考 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
5.2.2 タイムアウト付き
起床待ち状態への移行(タイムアウト付き)は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- tslp_tsk
自タスクをRUNNING状態からタイムアウト付きのWAITING状態(起床待ち状態)へと遷移させます。
ただし,本サービス・コールを発行した際,自タスクの起床要求がキューイングされていた(起床要求カウンタ > 0)場合には,状態操作処理は行わず,起床要求カウンタから1を減算します。
なお,起床待ち状態の解除は,以下の場合に行われます。
 
起床待ち状態の解除操作
戻り値
wup_tskの発行により,起床要求が発行された。
E_OK
iwup_tskの発行により,起床要求が発行された。
E_OK
rel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_RLWAI
irel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_RLWAI
パラメータtmoutで指定された待ち時間が経過した
E_TMOUT

以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;               /*変数の宣言*/
         TMO     tmout = 3600;       /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
 
         ercd = tslp_tsk ( tmout );  /*起床待ち状態への移行(タイムアウト付き)*/
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............        /*正常終了処理*/
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............        /*強制終了処理*/
         } else if ( ercd == E_TMOUT ) {
                 ............        /*タイムアウト処理*/
         }
         ............
 }

備考1 待ち時間tmoutTMO_FEVRが指定された際には“slp_tskと同等の処理”を実行します。
備考2 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
5.3 タスクの起床
タスクの起床は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- wup_tskiwup_tsk
パラメータtskidで指定されたタスクをWAITING状態(起床待ち状態)からREADY状態へ,またはWAITING-SUSPENDED状態からSUSPENDED状態へと遷移させます。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象タスクが起床待ち状態以外の場合には,状態操作処理は行わず,起床要求カウンタに1を加算します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ID      tskid = 8;              /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         wup_tsk ( tskid );              /*タスクの起床*/
 
         ............
         ............
 }

備考1 RI600PXが管理する起床要求カウンタは,8ビット幅で構成されています。このため,本サービス・コールでは,起床要求数が255回を超える場合には,起床要求のキューイング(起床要求カウンタの加算処理)は行わず,戻り値としてE_QOVRを返します。
備考2 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
5.4 起床要求の解除
起床要求の解除は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- can_wupican_wup
パラメータtskidで指定されたタスクにキューイングされている起床要求をすべて解除(起床要求カウンタに0を設定)します。
なお,本サービス・コールは戻り値として解除した起床要求数を返します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ER_UINT ercd;                   /*変数の宣言*/
         ID      tskid = 8;              /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         ercd = can_wup ( tskid );       /*起床要求の解除*/
 
         if ( ercd >= 0 ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }

備考 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
5.5 WAITING状態の強制解除
WAITING状態の強制解除は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- rel_waiirel_wai
パラメータtskidで指定されたタスクのWAITING状態を強制的に解除します。これにより,対象タスクは待ちキューから外れ,WAITING状態からREADY状態へ,またはWAITING-SUSPENDED状態からSUSPENDED状態へと遷移します。
なお,本サービス・コールの発行によりWAITING状態を解除されたタスクには,WAITING状態へと遷移するきっかけとなったサービス・コール(slp_tskwai_semなど)の戻り値としてE_RLWAIを返します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考3参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考3参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ID      tskid = 8;              /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         rel_wai ( tskid );              /*WAITING状態の強制解除*/
 
         ............
         ............
 }

備考1 本サービス・コールでは,解除要求のキューイングが行われません。このため,対象タスクがWAITING状態またはWAITING-SUSPENDED状態以外の場合には,戻り値としてE_OBJを返します。
備考2 本サービス・コールでは,SUSPENDED状態の解除は行われません。
備考3 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
5.6 SUSPENDED状態への移行
SUSPENDED状態への移行は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- sus_tskisus_tsk
パラメータtskidで指定されたタスクをRUNNING状態からSUSPENDED状態へ,READY状態からSUSPENDED状態へ,またはWAITING状態からWAITING-SUSPENDED状態へと遷移させます。
ただし,本サービス・コールを発行した際,対象タスクがSUSPENDED状態またはWAITING-SUSPENDED状態へと遷移していた場合には,戻り値としてE_QOVRを返します。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ID      tskid = 8;              /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         sus_tsk ( tskid );              /*SUSPENDED状態への移行*/
 
         ............
         ............
 }

備考 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
5.7 SUSPENDED状態の解除
5.7.1 SUSPENDED状態の解除
SUSPENDED状態の解除は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- rsm_tskirsm_tsk
パラメータtskidで指定されたタスクをSUSPENDED状態からREADY状態へ,またはWAITING-SUSPENDED状態からWAITING状態へと遷移させます。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考3参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考3参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ID      tskid = 8;              /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         rsm_tsk ( tskid );              /*SUSPENDED状態の解除*/
 
         ............
         ............
 }

備考1 本サービス・コールでは,解除要求のキューイングが行われません。このため,対象タスクがSUSPENDED状態またはWAITING-SUSPENDED状態以外の場合には,戻り値としてE_OBJを返します。
備考2 RI600PXでは,サスペンド要求のキューイング機能はサポートしていません。サスペンド要求のキューイングも含めてSUSPEND要求を解除するfrsm_tskifrsm_tskもサポートしていますが,これらの振る舞いはrsm_tskirsm_tskと同じです。
備考3 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
5.7.2 SUSPENDED状態の強制解除
SUSPENDED状態の強制解除は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- frsm_tskifrsm_tsk
パラメータtskidで指定されたタスクをSUSPENDED状態からREADY状態へ,またはWAITING-SUSPENDED状態からWAITING状態へと遷移させます。
以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考3参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考3参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ID      tskid = 8;              /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         frsm_tsk ( tskid );             /*SUSPENDED状態の強制解除*/
 
         ............
         ............
 }

備考1 本サービス・コールでは,解除要求のキューイングが行われません。このため,対象タスクがSUSPENDED状態またはWAITING-SUSPENDED状態以外の場合には,戻り値としてE_OBJを返します。
備考2 RI600PXでは,サスペンド要求のネストはできません。このため,本サービス・コールはrsm_tskirsm_tskとまったく同じ処理を行います。
備考3 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
5.8 時間経過待ち状態への移行
時間経過待ち状態への移行は,以下に示したサービス・コールを処理プログラムから発行することにより実現されます。
- dly_tsk
自タスクをパラメータdlytimで指定された遅延時間が経過するまでの間,RUNNING状態からWAITING状態(時間経過待ち状態)へと遷移させます。
なお,時間経過待ち状態の解除は,以下の場合に行われます。
 
時間経過待ち状態の解除操作
戻り値
パラメータdlytimで指定された遅延時間が経過した。
E_OK
rel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_RLWAI
irel_waiの発行により,待ち状態を強制的に解除された。
E_RLWAI

以下に,本サービス・コールの記述例を示します。
 #include        "kernel.h"              /*標準ヘッダ・ファイルの定義*/
 #include        "kernel_id.h"           /*cfg600pxが出力するヘッダ・ファイルの定義*/
 #pragma task Task1                      /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf );            /*備考2参照*/
 void Task1 ( VP_INT exinf )
 {
         ER      ercd;                   /*変数の宣言*/
         RELTIM  dlytim = 3600;          /*変数の宣言,初期化*/
 
         ............
         ............
 
         ercd = dly_tsk ( dlytim );      /*時間経過待ち状態への移行*/
 
         if ( ercd == E_OK ) {
                 ............            /*正常終了処理*/
                 ............
         } else if ( ercd == E_RLWAI ) {
                 ............            /*強制終了処理*/
                 ............
         }
 
         ............
         ............
 }

備考1 dlytimに0を指定すると,次回の基本クロック割り込み発生までが遅延時間となります。
備考2 システム・コンフィギュレーション・ファイルで生成したタスクについては,これらのステートメントはcfg600pxがkernel_id.hに出力するため,記述不要です。
5.9 タイムアウト付き起床待ちと時間経過待ちの違い
タイムアウト付き起床待ちと時間経過待ちには,以下にのような違いがあります。
表5-1  タイムアウト付き起床待ちと時間経過待ちの違い
タイムアウト付き起床待ち
時間経過待ち
状態遷移するサービス・コール
時間経過時の戻り値
E_TMOUT
E_OK
wup_tskiwup_tskが発行された際の動作
起床
起床要求をキューイング(時間経過待ちの解除は行われない)